読売新聞
2019年6月30日朝刊掲載記事
上条さんは松本盆地周辺を再現した模型を持ち込み、研究内容を説明した(米アリゾナ州フェニックスで)
米アリゾナ州フェニックスで5月に開かれたISEFには、80か国・地域から約1850人が参加した。昨年の日本学生科学賞の入賞者から6チーム8人が出場し、研究発表に臨んだ。
このうち、ISEFの特別賞である米気象学会賞3等を受賞したのが、長野県松本深志高3年の上条藍悠(あいひさ)さん(18)だ。授賞式でステージに上がった上条さんは「名前が呼ばれるとは思わなかった。実感が湧かず、とても不思議な気持ちだった」と振り返る。
上条さんは気象庁の地域気象観測システム(アメダス)のデータやコマ撮りカメラで撮影した雲の画像などを分析し、松本盆地の上空に浮かぶ夕立雲の動きの仕組みを解明した。出場前に気がかりだったのが「松本盆地に関する知識のないISEFの審査員たちに、研究内容がきちんと伝わるか」という点だった。
そこで「秘策」として用意したのが、松本盆地周辺の地形を再現した自作の模型だ。5月の連休の大半を費やし、発泡スチロールを切り抜いて完成させた。審査会場では綿で作った白い雲を手にしながら、雲や風の流れを詳しく説明。審査員からは「非常に分かりやすかった」と好評。「賞を受けたのは模型の力が大きかった」と笑顔を見せた。
審査会翌日の一般公開で上条さんの説明を聞いたチリ人男性は「雲の動きと地形の関係がイメージしやすかった。世界のほかの場所でも起きる現象で、素晴らしい研究だ」と話した。
上条さんは海外の代表者の研究発表も積極的に聞き、「内容はほぼ理解できた。これまで自分のやってきた勉強が間違いではなかった」と手応えも得たという。ただ、今回の結果に満足はしていない。「達成感はあるけれど、もう少し上の賞も狙えたという悔しさもある。ISEFはこれからの研究を進める動機付けになった」。気象関連の研究者という将来の夢に向かって、今後も努力を続けるつもりだ。
授賞式では、優れた研究成果を披露した高校生らに盛大な拍手が送られた)
ISEFは1950年から毎年開かれているコンテストで、世界中の高校生らが「生化学」「地球環境科学」「ロボット・知能機械」など22部門に分かれ、研究成果を披露する。科学に関連する国際大会では、一つの科目を対象とする「国際数学オリンピック」や「国際物理オリンピック」などがあるが、ISEFは様々な分野の学生が一堂に会するのが大きな特徴だ。
優れた研究発表を行った出場者には優秀賞や特別賞が与えられ、大会の最優秀者には賞金7万5000ドル(約810万円)が授与される。その規模の大きさから、ISEFは「世界最大の科学コンテスト」とも呼ばれている。
世界の注目を集めるゲノム編集技術「クリスパー・キャス9」の第一人者である米ブロード研究所のフェン・チャン博士も、ISEFの参加経験がある。チャン氏は今大会の開会セレモニーに登壇し、「ISEFでは科学を学ぶだけでなく、多くの友人ができた。彼らとは今でも交友が続いている」と語った。
ISEFは、世界の高校生らが進めている研究のトレンドが浮き彫りになる「見本市」の側面もある。今大会で目についたのは人工知能(AI)を取り入れた研究発表だ。AIを使ったロボットやセンサーの開発だけでなく、地震後の余震の予測や水中の植物プランクトンの検出、音楽の作曲など、AIを幅広い分野で「道具」として使いこなしている様子がうかがえた。AIは世界中の大学や企業で研究開発が盛んになっており、最先端技術を高校生たちの研究の現場でどう使っていくかは、日本の今後の課題となるだろう。
次回ISEFは来年5月に米カリフォルニア州アナハイムで開かれる。日本学生科学賞の審査を勝ち抜いた代表者たちが、世界の舞台で活躍することを期待したい。