第66回日本学生科学賞
ウミホタルは血の匂いを感じて餌をみつける
家族から受賞を祝福される寺地さん
審査を前にした交流会で、他の中学生らと互いの研究について語り合い、刺激を受けたという。「分野は違っても、みんな色々と工夫を重ねているのを知った。本番の質疑応答では、緊張して言いたいことが言えなかっただけに、『まさか自分が』と驚きでした」と振り返る。
ウミホタルを初めて見たのは、地元の発明クラブに参加した小学4年の夏。トンボを追いかけ回していた昆虫少年が、ひと目で「神秘的な光に魅せられた」。自ら飼育したいと思い立ち、翌年から父の昭彦さん(55)が運転する車で、自宅から15分の漁港に通い始めた。
採集には必ず家族5人全員で向かう。午後8時頃、防波堤からプラスチック製の虫かごを海中2~3メートルに沈める。暗闇の中、約1時間ただ待ち続けるが、母のなおこさん(51)は「アイスクリームを食べるなどして、家族だんらんの時間になっています」と目を細める。
研究では、室内と野外で実験と調査を繰り返し、ウミホタルが魚の内臓や血液、紅茶に含まれる化学物質にも反応していることを突き止めた。指導に当たった三重大教育学部の後藤太一郎・特任教授は「手順を踏んで、地道な作業を重ねたことが評価されたと思う。本人の努力はもちろん、家族の支えがあればこそでしょう」とたたえる。
現在、約300匹のウミホタルを飼育し、餌やりや水替えは姉の美月さん(16)、妹の絢星さん(11)も率先して手伝う。「研究も飼育も、家族の協力がなければ続けられなかった。感謝しかありません」と寺地さん。絢星さんから「頑張って本格的な研究者になってね」とエールを送られると、ニッコリほほ笑んだ。
2023年1月27日付 読売新聞(和歌山版)
スマート盲導杖『みちしる兵衛』
「みちしる兵衛」を使う高田さん
視覚障害者の歩行を支援する白杖(はくじょう)に人工知能(AI)を搭載した。「表彰式で名前を呼ばれた瞬間、ほっとした。ようやく実感が湧いてきた」と頬を緩ませる。
研究で開発したのは「スマート盲導杖(づえ)『みちしる兵衛(べえ)』」。横断歩道や線路、歩行者などの障害物を認識すると、「人がいます」「線路あり」などと、音声で教えてくれる白杖だ。
視覚障害者が駅のホームから転落したり、横断歩道からはみ出したりして発生する事故は後を絶たない。特に県内では、駅のホームドアや点字ブロック、音響式信号機など、視覚障害者に配慮した環境の整備が遅れていると感じていた。危険を検知して事故を防ぐ装置の開発が急務だと思い、高校に入学して間もない2021年5月から研究に打ち込んだ。
視覚障害者の視点で危険箇所を捉えるため、カメラを持ち、駅のホームや横断歩道の写真を撮影した。高崎市内を中心に歩き、その数は数千枚。それらのデータを集約し、AIのモデルを作成した。
プログラミングは素人だった上、中国語や英語の資料も参照する必要があり、心が折れそうになった時もあった。交流のある視覚障害者からの「こんな白杖があればもっと楽しく歩けそう」といった声を励みに机に向かい続けた。
「みちしる兵衛」には、歩行時の道しるべとなるだけでなく、視覚障害者や高齢者らが安全に過ごせる「社会の道しるべ」になってほしいとの願いも込めている。今後は、視覚障害者に使ってもらい、全国のデータを集めて環境整備の計画を提案したいと考えている。
「評価してもらったのはうれしいが、ここで終わるわけにはいかない」。研究意欲は尽きない。
2023年1月28日付 読売新聞(群馬版)