私たちの生活は、多くの優れた科学研究の成果の上に成り立っています。
優れた研究は、論理的で合理的な考えに基づいて行われています。一方、間違った思い込みや不正確な判断、公正でない方法で行われた研究は、誤った結果につながり、場合によっては社会に混乱をきたすこともあります。中高生の皆さんにとっても、公正で誠実な態度、合理的な考え方を持って研究に取り組むことは非常に大切なことです。
研究を始めるにあたっては、まず、これまでに何が分かっていて何が分かっていないかを、信頼性の高い情報が掲載された文献や書籍、データベースなどで確認しましょう。その上で、研究計画を立てます。きちんと計画を立てることが、筋道の立った論理的な研究につながります。実験操作および結果は実験ノートに正確に記載し、必要な時にすぐにデータを確認できるようにしましょう。その際、データのねつ造、改ざん、盗用は絶対に行ってはいけません。
また、機械や器具、薬品などは安全に取り扱うよう、十分に注意して下さい。研究内容によっては法律や規則などに反しないような配慮も必要になります。
人を対象とする調査、研究では、人に危害を加えないような配慮のほか、個人情報が特定されないよう保護することなども必要になります。
野外での調査研究では、自身の安全に注意するとともに、対象となる生物や自然環境への影響を最小限にとどめるようにしてください。
昆虫や哺乳類など動物を使った実験も注意が必要です。生命の尊重、動物愛護の観点から、関連する法律や規則に従うとともに、動物実験に関する国際的な規則などに反することがないようにしましょう。
実験や内容によっては、大学や研究機関の専門家の指導、助言が必要で、これを怠った場合には優れた研究成果でも国際的には発表できないことがあります。
研究にあたっては、中高生だけでなく、指導にあたる先生方もぜひこのような点にご配慮ください。素晴らしい研究作品の応募を心から願っています。
日本学生科学賞中央審査委員一同
研究倫理について詳しい情報は、
一般財団法人公正研究推進協会( APRIN )
のホームページをご覧ください。
日本学生科学賞の総合委員の3名の先生に、研究作品をレポートにまとめる際の注意点を紹介していただきました。応募にあっての参考にしてください。
学生科学賞の中央審査の委員で、今年のISEFに同行した東京工大の西原明法(あきのり)名誉教授(電子工学)に、よい研究を行うポイントを聞いた。
基礎科学の分野だけでなく、「情報・技術、応用数学」分野の応募も増えてきた。科学は自然の不思議を解明するが、技術は「こうすればもっとうまくいく」という視点だ。ISEFでも、目の動きで操作する車いす、手話を翻訳する手袋など、障害を持つ人の役に立つものが目立った。研究対象は身近にある。世の中を便利にするものを考えてみてはどうか。
テーマが決まれば先行研究を調べる。「reinventing the wheel」(車輪の再発明)という言葉がある。既にあるものをもう一度発明してしまうことだ。先行研究を確かめないと、時間を無駄にする。日本語の論文は、世界の中ではほんの一部。無理をしてでも英語の論文を読んでほしい。翻訳ツールを使ってもいい。
実験で重要なのは、まず、きちんとノートをつけることだ。いつ、どんな実験を行ったのか、どういう設定だったのかを記録する。そうすれば、失敗しても修正できるし、発見があればチェックしておけばいい。ノートの書き方は自由でいい。誤差の扱いも重要だ。どんな実験でも誤差は必ず入る。誤差を考慮しても同じことが言えるのか、誤差を小さくする工夫はないのかをよく考えてほしい。
研究はそううまくいかない。アイデアが浮かんでも実験に至るのは10回に1回、論文が書けるのは100回に1回という感じだ。粘り強くやってほしい。
英語は、読むだけでなく、質問を理解し、回答できる力をぜひつけてほしい。英語のバリアがなくなれば、可能性は大きく広がる。大学が行う高校生向けイベントや、大学祭での研究発表などに行ってみるのもよい。大学の先生と知り合いになり、指導を仰いでみよう。
※本文中の所属・役職は記事掲載当時のものです
(読売新聞 2018年6月30日朝刊掲載記事)
学生科学賞の中央審査委員で、今年のISEFにも同行した佐野雅己・東京大教授(統計物理学)に、研究作品を応募する際に良い科学論文を書くポイントや、科学コンクールの意義などについて聞いた。
科学論文は、論理の流れがシンプルでわかりやすいことが大切だ。実験の結果が論理とぴったり合えば、科学者は「美しい」と感じる。「面白い研究」はもちろん、「美しい研究」をぜひ目指してほしい。
選んだ研究テーマに興味を持った理由など「動機」を明確にしたい。また、過去の研究で何がわかっており、何が未解明かを示すことで、研究の新しさや重要性をアピールできる。そのために、図書館などで先行研究を調べておこう。インターネットでも、国立情報学研究所のデータベース「CiNii(サイニィ)」を使えば、日本語の論文を検索できる。
実験や観察の手順、方法を具体的に示すことも大切だ。第三者が実験しても同じ結果になるか検証できるようにするためだ。実験データには誤差がつきもので、仮説に合わないデータだからといって無視せず、何度も実験を繰り返す。どんな条件下で出たデータなのかを、表やグラフを用いてわかりやすく結果にまとめたい。
「考察」には、実験や観察の結果をもとに、何がわかったかを論理立てて書き込もう。その際、「事実」と「意見」を混同しないように注意してほしい。
学生科学賞やISEFは、研究の裾野を広げる意味で重要だ。ISEFでは、ロボット工学や生物工学など従来の高校の科目にはない新しい部門も生まれている。
日本は従来分野に興味がとどまっている傾向がある。世界でも通用するような研究を目指すには、夏休みなどに大学の研究室で先進的で新しい分野の研究を高校生が学ぶインターン制度などの取り組みも必要だろう。
※本文中の所属・役職は記事掲載当時のものです
(読売新聞 2017年6月28日朝刊掲載記事)
日本学生科学賞は地方・中央の審査を経て、成績優秀者に内閣総理大臣賞など11の賞が贈られるほか、入選、特別賞がある。原則、高校の部から最大8作品がISEFに進む。20年以上、審査を担う町田武生・埼玉大名誉教授に、作品をまとめる際の注意点を聞いた。
町田さんがまず訴えるのは、作品に〈1〉背景〈2〉手法〈3〉結果〈4〉考察の4要素を盛り込むことだ。プロの研究者も押さえる点だ。
とくに大事なのは「背景」。「なぜその研究を選んだのか」という動機が浮き彫りになるからだという。
最初に論文や書籍などをあたり、先行研究を調べる。すると解明部分と未解明部分の違いが明白になる。動機を書く際は、過去の論文を引用し、自分たちが未解明の部分に取り組んでいることを強調する。
「過去の知見を塗り替えていくのが研究の喜び。それを味わうためにも、先行研究を知ることは大事」。町田さんは、最近の作品には「気になったので調べた」としか書かれておらず、先行研究を調べたのかどうかが分からないと指摘する。
世界のトップが集うISEFでは、厳しい選考にさらされる。
例えば「手法」の独自性。教科書に載る実験手法を試みた上、さらにオリジナルの工夫を加えているかどうかが評価を左右する。海外の中高生は研究者の助言を得ている場合が多く、町田さんは「日本でも専門家に『身近な材料でできる実験を教えてほしい』と教えを請うのが良い」と話す。
「結果」のまとめ方にも注意が必要だ。生徒たちは〈1〉実験回数が少ない〈2〉都合の良い結果しか論文に書かない――といった傾向に陥りがちだ。問われるのは実験を繰り返しても同じ傾向のデータに落ち着く「再現性」の有無だ。「6~7回は再現してほしい」。町田さんは訴える。
(読売新聞 2016年9月17日朝刊掲載記事)
[推薦図書]
ターニャ・M・ヴィッカーズ
『中高生のための 科学自由研究ガイド』(2015年)三省堂