読売新聞へようこそ■イベント

生命(いのち)を見つめるフォト&エッセイコンテスト

エッセー部門

第2回入賞作品 −小学生の部 最優秀賞

「将棋の師しょうは命の恩人」

前田 海音(8)北海道

 私の将棋の師しょうは、卒業したNICUの先生だ。対局場所は、病院のデイルーム。いつもは優しい先生だけど、対局の時はいつも私をようしゃなく負かす。まだまだだな、と笑う先生を見て、大人気ないなあ、と思う。

 私がおなかにいる時、お母さんは全前置胎ばんのため大学病院に入院していた。先生は不安な気持ちでいるお母さんのベッドサイドに来ては、お腹にいる私に、
 「今○週か。もうちょっとお腹にいようか。でも、生まれてきたくなったらまっているよ。大丈夫だからね。」
と話しかけてくれたそうだ。生まれる前から私は先生の「大丈夫だよ」というまほうの言葉にはげまされてきたのだ。

 妊娠32週で帝王切開が決まった。お母さんは早産で生まれる私への申し訳なさでこんらんしたらしい。手術に向けて産科や麻すい科の先生から説明がすんだ後、先生がいつもの笑顔で現れてこう言ったので、お母さんは気がぬけてしまったらしい。

 「おつかれさま。いよいよ会えるね。大丈夫だよ。一番りっぱな保育器の準びもバッチリだよ。」

 状況はこんなに深こくなのに、とお母さんは笑ったそうだ。でも、先生の「大丈夫だよ」はお母さんにとってもまほうの言葉だった。だって、手術が決まってからはじめて笑えたのだから。

 その後お母さんは大出血して私もお母さんも危険な状態になった。重症仮死で生まれた私はすぐにNICUで治療を受けた。もちろんそのころのことは覚えていないけど生まれた日からスタッフのみなさんが書いてくれた「みおんちゃんスクスク日記」を読むと、はじめておっぱいを飲んだ日、おふろに入った日など私のはじめてをたくさん知ることができる。これは私のたからものだ。

 NICUを卒業した後も私は病気の治療のために通院している。つらい検査や手術はいやだし、通院することは楽しくない。でも、いつも先生が「大丈夫」と言ってくれると、何だか強くなれた気がして頑ばろうと思える。病気から目をそらすための「大丈夫」じゃない。いつも病気の子供たちに向き合って毎日朝も夜も忙しい先生。子供の力を信じて、いっしょにあるいてくれる先生の「大丈夫」は、私に力をくれる。

 先生は対局の時「三手先を読むんだよ」と言う。私は、将棋も生きていくことも同じかな、と思う。病気の子供の今と未来を同じくらい大切に考えて治療していくことが必要なのかな。今は将棋の師しょうだけど、いつか私が先生と同じ小児科の先生になったら、仕事の師しょうにもなってほしい。一番弟子として、大人気なくきたえてほしい。と思ったりして、私に勝ってとくいな顔をする先生の顔を、くやしい気持ちでちょっとにらむ。

(敬称略・年齢、学年などは2019年2月16日時点)
(注)入賞作品を無断で使用したり、転用したり、個人、家庭での読書以外の目的で複写することは法律で禁じられています。

過去の作品
  1. 2018年 第1回

主催:日本医師会、読売新聞社  後援:厚生労働省
協賛:東京海上日動火災保険株式会社、東京海上日動あんしん生命保険株式会社

TOP