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生命(いのち)を見つめるフォト&エッセイコンテスト

エッセー部門

第2回入賞作品 −中高生の部 優秀賞

「二人の絆が生む奇跡」

古泉 修行(14)新潟県

「温かい ママのおなかで 過ごしてた でも暗いから 飛び出してきたよ」

 これは幼稚園時代の僕の句だ。母の胎内。ドクドクと心地よい心臓の音が僕を包む。守られた最適の環境がそこにはあった。しかし、自身の力を発揮すべく僕は社会に飛び出した。

 2004年10月29日10時21分、僕はこの世に誕生した! 「ずっとママになりたかった」という母の夢が現実になった瞬間だ。

「なおちゃんは神様がくれた子だよ。」

 そう言って、母は僕をギューっと抱きしめる。

「そうだよ。空からいつも見てたよ。ママが寂しそうだったから、そばに来たんだ。」

 僕も答える。幼い頃は本当に自らが母を選び、空から地上に降りてきた気になっていた。中学生の今、授業で人間の誕生の仕組みを学び、幼い頃の会話は、物語の世界での話なのだと理解できる。しかし誰もが夢を描き、想像は人の生きる力を何倍にも大きくする。そして、親子の絆も、科学では解明できない物語の世界を現実にする力をもつことを僕は知った。

「ママは不妊症だったんだよ。脳下垂体の女性ホルモンをつかさどる機能が低かったの。」

 母は不妊治療を頑張った。産科に隣接する病院の待合室に響く赤ちゃんの泣き声は、いつも母を苦しめた。しかし、効果は得られず治療をめることとなる。ところが2年後、突然僕を授かる。だから、僕は奇跡の子なのだ。

 母は早速、「なおちゃん」と名をつけ、毎日お腹の子に話しかけた。食事、入浴、見える景色、一日の様子を色鮮やかに僕に語った。母が優しくお腹をなでる度、僕は元気に足で蹴り返して返事をした。しかし、夢のような生活とは裏腹に、母の体調は思わしくなかった。10キロも体重が減り、血圧も70を切った。「自然分娩ぶんべんには耐えられない。帝王切開だね。」医師の言葉に、自然分娩を望む母は落ち込んだ。しかし、帰宅後、再び奇跡は起こった。

「大丈夫だよ!」

 力強い声が聞こえた。それは、すごく不思議な感覚だったそうだ。声は頭の中てっぺんに強くはっきりと響く。お腹の赤ちゃんの声だと確信した母はとてもうれしかった。子どもが守ってくれているという一体感を感じたからだ。

 翌日、話を聞いた医師は事も無げに言った。

「親子だから、そんなこともあるでしょう。子どもは自分で外に出たがっているんだね。」

 医師は、母の言葉を全面的に受け止め、帝王切開の予約を取り消した。笑い飛ばされると思った母は、とても驚いたという。でも、
「お腹の子との絆を認めてもらえ、最高に幸せで、心からなおちゃんをいとおしいと思った。」
と話す。翌朝、陣痛が起こり、病院到着後30分の安産で、僕はつるんと生まれてきた。

 出産後も不思議は続いた。相変わらず女性ホルモンが足りない母は、母乳育児は無理と言われていた。しかし、おっぱいを離さない僕の頑張りと、母の愛情で、母乳はよく出た。

「有り得ない。異常分泌だ。がんかな?」

 医師は数々の検査をしたが、病気はなかった。

「親子の愛は、科学の力を超えるらしい。」

 またも、医師は親子の絆で解決した。その言葉に、母は僕への愛情に自信をもった。

「僕、ママのことが見えるよ。」

 幼稚園に通う頃になると、僕は家に一人でいる母の行動をよく当てた。母が心で思っている事を、僕が言葉にしてビックリさせたことも多い。しかしその度に思い出す。「親子だから心が通じている。」その医師の言葉は、僕たち親子の信頼関係を揺るぎないものにした。

 「生きている」。とても不思議なことだ。僕という体の中に、僕の意識があって、心で感じて頭で考え、自らの意思で行動できる。人間とは、とても神秘的だ。人の誕生は、努力で解決できるものではないからこそ、母は苦しみ、喜びもひとしおだったのだろう。一喜一憂する母に全面的に共感した医師の言葉は、母の生きる力を何倍にも大きくしたのだ。

 家族の力はとても偉大だ。一緒にいなくても存在だけで強い力をくれる。家を出て、一歩社会に出る時、大きな勇気がみなぎるのだ。自信のない事にも挑戦する強い心や、挫折も乗り越え前を向ける根性が心の底から湧き上がる。それは帰れる家があるという安心感だ。どんなにボロボロになっても僕を受け止めてくれる人がいる。喜びや悲しみを共に分かち合う母がいるから、社会の荒波に乗り出し、自身の力を思う存分試してみたいと強く思う。

 僕には幼い頃からのぶれない夢がある。JAXA・筑波宇宙センターで宇宙開発に携わることだ。母は新潟の大学を卒業後、長年つくば市で仕事をしていた。同じ土地での生活を夢見る僕に母は驚くが、これも親子のつながりが導く運命と確信する。必ず夢をかなえ、生き生きと活躍する姿を見せると決めている。

 今年、僕の背丈は母を越した。その僕を見上げながら、今でも毎朝、母は笑顔で言う。

「生まれてきてくれてありがとう。」

 奇跡的にこの世に生を受けたのだ。もてる力を最大限発揮して全力で生きると母に誓う。

(敬称略・年齢、学年などは2019年2月16日時点)
(注)入賞作品を無断で使用したり、転用したり、個人、家庭での読書以外の目的で複写することは法律で禁じられています。

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  1. 2018年 第1回

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