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生命(いのち)を見つめるフォト&エッセイコンテスト

エッセー部門

第1回入賞作品 −小学生の部 優秀賞

「私はNICU卒業生」

石野 美宙(12)東京都

 母が妊娠高血圧症で長期入院をしているとき、更に常位胎盤早期剥離を起こし、母は心肺停止となり、超緊急帝王切開で私は心肺停止で生まれた。私は32週0日だった。私はペットボトルよりも小さな体で、すぐにNICUに運ばれた。幸い母も私も、後遺症もなく、奇跡的に2人とも助かった。

 母の意識が戻ったのは翌日で、私に会えたのは2日後だったそうだ。

 「有難ありがとう。生まれてきてくれて、有難う」

 母が私に、初めてかけてくれた言葉だ。NICUはオルゴールの音楽がかかっており、私の入っているプラスチックの箱の後ろは、遊園地の観覧車や楽しそうな遊具が見えており、母はチューブだらけの体の私を見て、いつも泣いていたそうだ。

 泣いてばかりの母を見て、看護師さんが「お母さん、赤ちゃんは一生懸命頑張っているから、お母さんはにこにこ笑っていてくださいね」と声をかけられたお陰で、母は泣くことをやめ、短い面会時間の間は笑って過ごせるようになったという。母が私の前で泣かず、にこにこ笑っているのは、恐らくこのころに母として強くなったのだと思う。

 私が3歳になる前に、母のお腹の中に妹の命が芽生えた。病院から、「次の出産も必ずここで診てもらうように」と言われていたので、母は私を連れて3年ぶりに大学病院へ診察に行った。すると、母の担当医だった先生のひとりが、母を診ることになった。

 先生は私を見て、「あれ?この子は……もしかして、あの時の子?」と言い、母は「そうです、この子があの時の子です」と言うと、先生はぽろぽろと涙をこぼし、声を震わせながら私の頭をでて言った。

 「君があの時の子なんだね。君が生まれるとき、本当に大変だったんだよ。うちの大学始まってからも、前例がないほどで。こんなことを言うのもおかしいけど、医学の力ではとても説明できないほど、神がかり的な奇跡としか説明ができないんだよ。そうか、君がそうなんだね。命を大切にね」

 私が母のお腹にいるとき、そして生まれてくるとき、どれほど大変だったかを幼いころからずっと聞いてきたが、このときの先生の涙と「命を大切にね」の言葉が、どれほど大変だったか、どれほど命が尊いものか、私は妹のいる母のお腹を撫でながら、幼いながらも心に沁み込んだ。そして私は、大学病院の先生たちが母と私を助けてくれたように、私も人の命を救いたいと思うようになった。

 私が生まれてから12年、干支えとを1周し、私は将来の進路を決めていく分岐点に立っている。干支が2周目を迎えるとき、私は私が卒業したNICUで、卒業生代表として、入学してくる小さな命と、涙を流すお母さんのために、私は命ある限り尽くしたいと思っている。「命を大切にね」の言葉を、私は多くの人に伝えていきたい。

(敬称略・年齢、学年などは2018年2月14日時点)
(注)入賞作品を無断で使用したり、転用したり、個人、家庭での読書以外の目的で複写することは法律で禁じられています。

主催:日本医師会、読売新聞社  後援:厚生労働省
協賛:東京海上日動火災保険株式会社、東京海上日動あんしん生命保険株式会社

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