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生命(いのち)を見つめるフォト&エッセイコンテスト

エッセー部門

第1回入賞作品 −中高生の部 優秀賞

「患者の家族として」

穴田 未優(15)千葉県

 午後10時、家の電話が鳴った。父はまだ帰ってきておらず、母は車で兄を駅に迎えに行っていたので、家には私以外誰もいなかった。私は布団の中にいた。遠くで鳴っていたのは聞こえていたが、うとうとしていたので電話には出なかった。

 それは、父方の祖母からの電話だった。がんで闘病中の祖父が自室で意識を失い、病院に運ばれている救急車の中から、携帯で掛けていた電話の音だった。

 結局、祖母は駅で兄を待っている母の携帯に掛け、連絡が取れた。私は、兄の迎えから帰った母に起こされ、状況を説明されながら服に着替えた。

 仕事中の父とは連絡が取れないままだったので、母の運転で病院へ向かう車の中で、連絡を取ろうと私は何度も父の携帯に電話を掛けた。

 病院に着くと、待合室に座っている祖母を見つけ、駆け寄っていった。祖母から、今、祖父は気管を切開し処置してもらっているということと、救急車で運ばれるまでの経緯を聞きながら、待合室にいた。皆、落ち着かない様子で、私は祖父に何が起こっているかよくわからず、心がざわざわしていた。

 しばらくして、青い服を着た医師に診察室に呼ばれた。運ばれてきたその病院は、祖父が通院していた病院ではなかったので、カルテを取り寄せる為の質問や、祖父のこれまでの治療内容などを聞かれた。それらの質問のうちの一つのように医師は祖母に

 「ご主人は、延命措置を望まれていたのですか?」

 と聞いた。祖母は

 「私たち夫婦は延命措置を望んでいません。」と答えた。すると医師は

 「え? 今したのは延命措置ですよ!」

 と言い、祖母は「えっ? 延命措置は望んでいません。」

 と再び答えた。

 祖母は救急車の中で、救急隊員に

 「気管を切開していいですか?」

 と聞かれ、それが延命措置ということを知らず

 「お願いします。」

 と言ったのだった。それが救急隊員から医師に伝えられ、措置が行われたのだった。

 医師は少し怒った口調で

 「一度延命措置を行ったら途中でやめることは出来ないんですよ。人工呼吸器のスイッチを切ることは殺人になってしまうので医師でもできません。」

 と言った。祖母は

 「気管の切開が延命措置とは知らなくて…」と戸惑っていた。医師はさらに

 「患者の家族ももっと勉強するべきです。知らないでは済みません。」

 と語気を強めた。

 その後、祖父は処置室から病室に移動した。ベッドの周りのいくつもの機械に、管でつながれていた。

 しばらくして、父が職場から駆け付け、病院に到着した。祖母は父に、今に至るまでの祖父の様子や、望んでいなかった延命措置をし、医師に叱られたことを話した。父はそれについては

 「色々な立場や考え方がある。」

 とだけ言っていた。祖母と母は少し納得のいかない様子だった。

 後に、当直の看護師から、担当の医師は凄惨せいさんな現場をいくつも経験し、厳しいことも言うが、患者のことをよく考え、信頼の置ける先生だということを聞いた。

 色々な意見があることはもっともだ。また、患者家族が勉強をすることも必要なことだと思う。しかし、医療に携わっていない人は、医療用語にも疎く、このような状況に慣れていないので、混乱すると思う。そこに、医療関係者と患者・患者家族との理解の差が出来るのではないかと思う。細かい説明や確認をしてもらえたらその差は埋まるのではないかとも思う。

 日をまたいで午前1時過ぎに、祖父はそのまま息を引き取った。延命措置のおかげで、仕事で到着が遅くなってしまった父も祖父の最期に立ち会うことができた。祖父は生前、延命措置を望んでいなかった。けれど、父は『結果としてよかった』と言っていた。

(敬称略・年齢、学年などは2018年2月14日時点)
(注)入賞作品を無断で使用したり、転用したり、個人、家庭での読書以外の目的で複写することは法律で禁じられています。

主催:日本医師会、読売新聞社  後援:厚生労働省
協賛:東京海上日動火災保険株式会社、東京海上日動あんしん生命保険株式会社

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