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至高の落語・よみらくご特集紙面

2015/1月号 2014/1月号
子ほめ、牛ほめ、演者ほめ ~~よみらくご流・出演者紹介

昔昔亭桃太郎を褒める

  • 2016/4/08

 今更とは思うが、名前の読みは「せきせきてい・ももたろう」。けっして「むかしむかしてい」ではない。

 初代は、あの柳家金語楼の弟で、戦時中は何と東条英機にひいきにされたという人。「桃太郎さんでございます」と、おなじみのあいさつをするときのする満面の笑みを鮮明に覚えている。その次が当代だから、二代目だと思っていたら、当人が否定するのだ。

 「オレは三代目だよ。だから金語楼先生の弟さんは二代目だね」

 「じゃ、初代は誰なんですか?」

 「あれ、長井さん、知らないの? ほら、犬と猿とキジを連れて鬼ヶ島へ行った・・・」

 ま、こういう人なのである。

 鬼ヶ島まで行かなくても、思いついた日に寄席に行けば、すぐに当代桃太郎に会うことができる。そのぐらい、頻繁に寄席に出演しているのである。自他共に認める「寄席の爆笑王」。当然、自身も「爆笑王」の自覚はあるのだが、高座姿には力んだところがまるでなく、いつもまったりと落ち着いて、ぼそぼそとレトロなギャグをとばすばかり。「観客を笑わそう」などという気配はなく、「田舎の公民館にあるような」(本人談)安っぽい茶碗でお茶をすすって不思議な間を作り出しているのである。

 でもね、それでも桃太郎の高座は面白いのである。「爆笑王か」と問われれば、「イエス」と答えるしかない。「変人か」と聞かれても、「イエス」と即答するのだけれど。

 桃太郎の高座の特徴を挙げてみようか。

 1.あまり愛想がない。

 2.どちらかというと滑舌は良くない。

 3.いつも同じようなネタをやっている。

 4.ギャグはオソロシイほどベタである。

 何だか悪口を並べているみたいだが、各項には桃太郎に対する褒め言葉が隠れている。隠れた部分を明るみに出すと、こんなふうになる。

 1.一見愛想はないようにみえるが、ぶっきらぼうな口調がギャグを生かしている。

 2.たしかに滑舌は良くないが、何ともいえない愛嬌があって癒やされる。

 3.いつも同じようなネタなのに、何度聞いても可笑しい。

 4.オソロシイほどベタなギャグなのに、10、20と連発されると、どこかで観客の笑いのスイッチが入ってしまい、最終的には場内大爆笑になる。

 ネタはほとんどが自作のナンセンス落語である。処女作(?)は「裕次郎物語」だ。

 「石原裕次郎さんが亡くなって1か月後に、突然ひらめいたの。昔から裕次郎ファンだったから、裕次郎の事なら何でも知ってる。1週間で落語ができた。入門20年で初めて作った新作落語が評判になって、それから『結婚相談所』『金満家族』『歌謡曲を斬る』と、どんどん作るようになった。今でも年に一度は裕次郎の墓参りに行くんだよ。『おかげで食べさせてもらってます』って、たばこ1箱置いてくるの」

 僕が好きなのは「お見合い中」だ。お見合いの席で、やたら金持ちそうな女性ハデヤマさんが、風采の上がらないお見合い相手のジミカワ君にあれこれ質問するというだけの噺なのだが、妙な可笑しさがあって一度聞くと癖になってしまう。

 「結婚したらどこに住みたいの? あたしは赤坂か表参道」「僕は業平橋か押上」

 「あたしはテニスが好き。高級なスポーツだから」「アレは高級ですか? 低級(庭球)じゃないですか?」

 このくだらなさが、たまらない。

 「新作好み」とうたった今回の「よみらくご」。三三、吉坊、夢丸などフレッシュな顔ぶれの中に、あえてベテラン桃太郎に登場願った。寄席に行けばいつでも会える桃太郎の不思議な面白高座、スタンダードな「寄席の新作」を見直すことで、笑いの原点を振り返ってみよう――。そんな、もっともらしい狙いなどまったくない。ただ、いつもの桃太郎で、いつも通りに笑ってもらいたいだけなのである。

 「よみらくご」で演じる「ぜんざい公社」は、桃太郎が若い頃からの得意ネタ。「オレはこの噺のおかげで真打ちになれたんだ」と本人が言うほど、大ウケしたという。元は戦前に作られた上方の新作落語だが、「お役所仕事」を題材にした内容は、今も全く古びておらず、驚かされる。

 いろいろ書いたが、とにかく桃太郎落語は面白い。「よみらくご 新作好み2」の隠れたテーマは「桃太郎再発見」である・・・のかもしれない。