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2015/1月号 2014/1月号
子ほめ、牛ほめ、演者ほめ ~~よみらくご流・出演者紹介

瀧川鯉昇を褒める

  • 2016/4/11

 噺のまくらが輝いている。面白さだけなら、鯉昇の「まくら」は落語界随一だと僕が断言しても、おそらくどこからもクレームはつかないはずだ。

 「エエ、はっきりしない天候が続きますが、アタシはもともとはっきりしない人生を送ってきたので、かえって調子がいいという・・」

 はっきりしないどころか、鯉昇の噺家人生はけっこう波瀾万丈なのだ。学生時代、修業時代、最近の高座、弟子の失敗談に、奥様との微妙な緊張関係。鯉昇はまくらで自らを語る。面白すぎて、時に「本当かな」と首をかしげたくなる。そのあたりところを当人に確かめるのだが、「へへへ、いやその、どうも」とかいって、ごまかされてしまうのである。

 数ある鯉昇の爆笑逸話は、ほとんどが伝説化している。伝説ならば、本当かどうかなど、大きな問題ではない。僕たちはただ「レジェンドまくら」をただボーッと聞いて、笑ったり、癒されたり、時に驚かされたりするのである。

 

 少年時代のまくらなら、「佐鳴湖伝説」だ。

 佐鳴湖は、鯉昇の生まれ故郷、静岡県浜松市にあり、かつては「日本一汚染度の高い湖」として勇名(?)をはせた。「湖水の色がアイスコーヒーみたい」という惨状なのに、貸しボート屋があり、当時でも珍しい和船があった。父親の指導の下、鯉昇はそこで和船のこぎ方を覚えたという。

 「なにしろ汚い川でしたから、『落ちたら死ぬ』と父親に脅かされ、必死でこぎました」

 だから、鯉昇の得意ネタ「船徳」で、にわか船頭の若旦那が大川に舟をこぎ出す場面には注目しなければならない。

 「自慢じゃないけど、あたしの船さばきは本物ですから。ただ、仲間もお客さんも、誰一人そのことに気がついてくれないんです」

 そんな佐鳴湖の水が、近年、驚くほどきれいになった。最新の浄化装置が威力を発揮したのである。「佐鳴湖浄化運動」のキャンペーンに招かれた鯉昇は、「茶の湯」を演じた後、「きれいになった佐鳴湖の水で立てた茶」を振る舞われた。

 「大丈夫だとはわかっているんですが、体が緊張して。思い切って飲んだら、後で若干舌がしびれたような・・・」

 

 修業時代も「伝説」には事欠かない。入門した先代春風亭小柳枝は、「師匠(六代目柳橋)の家で、自分のまたがった枝を切って木から落ちた」という伝説を持つ奇人変人で、師弟一緒にスポーツ新聞にくるまって野宿した。師匠は酒の上でのしくじりを重ね、ついには廃業。独りぼっちの鯉昇は、寄席の出番も与えられず、地方を回って「落語をやらせてください。交通費だけでいいですから」と頭を下げたという。

 「その時、地元浜松のお寺さんには世話になりました。付き合いのある寺院を挙げろといわれたら、即座に三十ほど出てきます。だからね、『蒟蒻問答』をやるときに困るんですよ。『坊主!』って呼び捨てに出来ないから」

 

 家族の伝説もあった。

 「私が落語家になるのを、父がよく許したものだと思ってました。で、後年、本人に聞いてみたら、『失敗して、すぐに帰ってくると思ったから』だって。その後、やっと真打ちになって、故郷で披露目の落語会をやってもらった。そしたら父が『これ(披露興行)が終わると、家に帰ってくるのか』『いや、そういうことじゃなくて』」

 

 書ききれないのでこの辺でやめるが、「レジェンドまくら」は今でも少しずつ増殖しているはずだ。