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至高の落語・よみらくご特集紙面

2015/1月号 2014/1月号
子ほめ、牛ほめ、演者ほめ ~~よみらくご流・出演者紹介

三笑亭夢丸を褒める

  • 2016/2/16

 昨年、師匠の名前を継ぎ「二代目夢丸」という立派な真打ちになった男にこんな褒め言葉を贈るのがふさわしいかどうかわからないが、三笑亭夢丸は落語家にしておくのはもったいないほどの「いいやつ」である。

 イガグリ頭にピンと立った両の耳、意外に小さなタマゴ顔の中央にくっきり太い眉と、見ているこちらが気恥ずかしくなるようなキラッキラ光る目が自己主張している。いろいろ回りくどい形容をしてきたが、一言で言えば、昭和の高校球児、あるいは名作スポコン漫画「柔道部物語」の三五十五君のような風貌なのである。ううむ、余計に回りくどい表現になったような気もするが、こういう風貌の男が「いいやつ」でないわけはない。

 とにかく、そんな熱血を絵に描いたような青年が、越後の新発田から出てきて先代夢丸の門を叩いた。以来、落語芸術協会の次代を担うホープとして、寄席ファン、ゲイキョーファンの熱い声援を浴び続けているのである。

 真っすぐで、男気があって、先輩後輩に愛され、入門以来、年に1キロずつ着実に体重を増やしながら、落語道を邁進している。「年に1キロ増」のおかげで熱血球児を思わせるサワヤカな面差しは微妙に変化し、現在では「引退間際で自己管理が甘くなって試合前にショートケーキをぱくついている童顔のプロ野球選手」のような風情を漂わせているが(またまた回りくどくてスマン)、増えたのは「肉」ばかりではない。持ちネタの多さ、幅広さは普通じゃない。

 寄席の定番ネタはもちろん、ここぞと言うときに勝負する古典の大ネタにも果敢に挑戦、時代の中で埋もれ今や誰もやり手のいない珍品を復活させたかと思うと、「ゲイキョー新作」とよばれる昭和生まれのレトロ新作まで達者にこなし、何年も前から「芸はすでに真打ちクラス」とウワサされていた。

 夢丸落語の最大の特徴は「あたふたする登場人物」だろう。格安岡場所の怪物のごとき女郎に「チューしよ、チュー」と迫られ卒倒する「徳ちゃん」の噺家、侍同士の意地の張り合いに巻き込まれ終始イジイジおどおどメソメソしている「井戸の茶碗」のくず屋清兵衛、将来を誓った花魁を思いながらボンヤリしたりはしゃぎまくったりと感情の落差が激しすぎる「幾代餅」の清蔵と、例を挙げたらきりがない。

 感情過多の登場人物が入り乱れる夢丸落語は、せわしなく、あわただしく、やかましい。ただ、こうしたマイナス要素にしか思えないこれらの特徴が、意外なことに夢丸落語の魅力にもなっているのだ。夢丸が語る「あたふたするキャラクター」は、ただあたふたしているわけではない。彼らは皆、自分の思い、夢、やりたいことに対して「一途」なのである。彼らは、自分の思いに正直なあまり、ささいなことで慌てたり、しょげたり、弾けたりする。その「一途さ」が、あまりにストレートに語られるから、聞いている僕らは少しも嫌な気持ちがせず、むしろ「頑張れよ!」と彼らを応援したくなってしまう。

 そうそう、夢丸自身がそういう奴なのだった。

 夢丸の真打昇進披露興行の時、カメラマン役を務めた春風亭昇也が落語のまくらでこんな「夢丸分析」を語っていた。

 「夢丸師匠の高座が一番撮りにくかった。いつも動いているんです。まくらをしゃべっている間も、一時だって落ち着いていない。目をつむっていることも多くて、写真を撮ると、4割が目をつむってて、4割がぶれていて、使えるのは残り2割だけでした」

 もとから落ち着きのない噺家が、自分と同じような奴が出てくる落語をしゃべっているのである。せわしなさ、あわただしさに不自然なところがないのは当然だろう。

 今回の「よみらくご」で夢丸が披露する「思ひ出」は、「おばあさん落語」で売れに売れた先代古今亭今輔の演じていた新作だ。演じ手のいない昭和の新作落語を、夢丸が掘り出して、磨きに磨いているネタである。

 「芸協と落協の違いも知らず、ただ師匠へのあこがれだけで芸協に入ったら、すばらしい地下鉱脈があったんです。昭和の頃に作られた『芸協の新作』が眠っていました。『古い』『アナログ』って言う人もいるけれど、高度成長期なんて知らない俺たちの世代には、すべてが新鮮です。芸協の財産を、みんなが忘れないうちに引き継いでいかないと」

 一途な男の、一途な落語である。