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ラ・トゥールは、フランス・ロレーヌ地方の小都市ヴィック=シュル=セイユで生まれました。ロレーヌは代々公爵家が統治する、政治的にも経済的にもフランスから独立したひとつの国家でしたが、彼の生地はフランス王が支配権をもつ司教区に属していました。ラ・トゥールが制作を続けたのは戦乱が続いた時代のロレーヌ公国ですが、フランス王ルイ13世のために作品を描いたという記録も残されており、広く画家としての名声を確立していたことがわかっています。その証拠に、ルイ13世がラ・トゥールの作品を居室に飾る際、そこに飾られていた他の画家の作品をすべて外させたという話も言い伝えられている程です。

光と闇の対比の中に美しい色彩で描き出されたラ・トゥールの作品は、静けさと深い精神性に満ち、きわめて近代的な造形性を見せています。抽象的とも言われるほどに単純化された画面は、時に苛烈なまでのレアリスムと相まって、見る者に忘れがたい印象を与えます。今日の高い評価が、20世紀の芸術の革新を経たことで得られたことも指摘されています。この画家の芸術は映画人にも愛されており、あらゆる方面からさまざまな賞賛を受けています。

ラ・トゥールの真作は、30年戦争などの戦乱をはじめとする時代の波に翻弄されたため、多くが失われ、今日まで伝わるのは僅か40点あまりにすぎません。フランスが誇るルーヴル美術館でさえ所蔵しているのは6点にしかすぎません。先日、NHKで6時間にわたり放映された「夢の美術館 ルーヴル美術館名作100選」ではラ・トゥールの作品が2点も選ばれる程高く評価されています。今回同美術館から出品される「ダイヤのエースを持ついかさま師」は、ルーヴルのガイドの表紙を飾ったり、フランスの雑誌『Le Figaro Magazine』の表紙で取り上げられたりする程の人気作で、アジアへの貸出は今回が初めてとなります。また、この作品は、フランス国外への流出を防ぐために、購入当時、ルーヴル美術館の購入価格の最高金額記録を塗り替えました。このほかにも『ダヴィンチ・コード』やディズニー映画に登場する作品もあり、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールは、作品の希少性や価値から言っても、イタリアのダ・ヴィンチ、オランダのフェルメールに比肩する画家と言えるでしょう。

今回の展覧会は、この希少なラ・トゥールの真作の中から近年再発見された《聖トマス》を国立西洋美術館が購入する機会を得たため、それを記念する形で企画されました。世界の諸美術館の至宝ともされるラ・トゥールの作品が今回これだけ貸し出されるのは、その祝福のためだと言っても過言ではありません。実際世界的に見ても、ラ・トゥール展は、近年、ワシントン/フォートワース(1996−1997年)、パリ〈1997−98年〉で開かれただけで、あとはそれよりかなり前にフランスで開かれた数例だけです。日本での開催は最初で最後となるかも知れません。

ラ・トゥールに関する資料は、作品同様ほとんど残されていません。ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの息子は、貴族の称号を得て画家を廃業したこともあり、父祖の出自を隠そうとした可能性を指摘する専門家もいます。ラ・トゥールは、1593年にパン屋の息子として生まれ、生地の教会には3月14日が洗礼日として記録が残されています。当時の慣習では生まれてから数日以内に洗礼すると言われていますが、残念ながら生まれた日も特定できません。戦乱やペストで混乱する時代に画家としての名声を得ましたが、1652年1月30日、肋膜炎で死去、没後は彼の画風は時代遅れと見なされ、時代から忘れ去られました。


<<聖トマス>> 12使徒シリーズの一つ国立西洋美術館が2003年度に購入したラ・トゥールの初期作品

<<蚤をとる女>> ラ・トゥールの傑作の一つ。主題について諸説ある謎めいた作品。

<<ダイヤのエースを持ついかさま師>> ルーヴルの所蔵作品の中で最も美しくかつ重要な作品

<<書物のあるマグダラのマリア>> マグダラのマリアは、ラ・トゥールが最も好んで描いた主題。別のポーズの作品はディズニー映画にも登場した

<<聖ヨセフの夢>> ラ・トゥールの全作品中、完成度が最も高いと評価されている作品。

会場には約20点の真筆と素描、版画のほか関連作品と資料などが展示される予定です。
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