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思い出の展覧会
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近代日本画の歩み展
日本近代美術史を系統的に学ぶ 学芸員生活の貴重な財産に
毛利伊知郎 三重県立美術館副館長
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「近代日本画の歩み展」会場風景

 開館1周年記念展に、近代日本画の通史的な展覧会を開催するから、君が担当しなさい」と当時の陰里鐵郎館長に言われたのは、私が学芸員になって日も浅い1982年終りごろか、83年初めの学芸会議だった。

 当時、三重の美術館ではどのような展覧会を開催するかは館長の専決事項で、各展の担当決定には学芸員の専門や希望が考慮されていた。

 開館1周年記念展となった「近代日本画の歩み展」については私から担当したいと申し出たのではなかったが、館長の「鶴の一声」で決まったように記憶している。

 今から30年ほど前の私の学生時代には、日本近代美術史の授業が開講されている大学はごくわずかで、私も大学で日本近代美術史を系統的に学んだことはほとんどなかった。

 そのため、美術館学芸員になって近代美術と接する機会が急に増えて戸惑いを覚えることも少なくなかった。

 そんな私に展覧会を通じて日本近代美術史を勉強させようとの配慮が館長にはあったように思われる。

 にわか勉強で出品候補作品のリストをつくり、会期の半年ほど前から館長のカバン持ちよろしく各所蔵家へお願いにまわり、作品を借りるに当たっての心構えや作法を学んでいった。

 何も知らないというのは恐ろしいことで、駆け出しの若造が各所で名だたる名品をお願いしたが、お目にかかった方がどなたも好意的であったことは非常にありがたかった。

 東京国立近代美術館に浅野徹さんを尋ねた際のことだった。

 「そんな名品ばかりを貸すのはちょっと無理ですよ」と苦笑されながらも、「この種の展覧会は美術館としては、一度は開いておく必要があるものです」と言われて、ずいぶん配慮してくださったことは今も強く記憶に残っている。

 作品が掛幅装と思い込んで小形の車で集荷に出向いたところ、実は二曲屏風で車に積めないため翌日出直したり、図録原稿が遅れて印刷会社の担当者に怒られたりとドタバタのうちに展覧会初日を迎えたが、昨今に比べればのどかな良き時代であったとつくづく思う。

 図録に載せた原稿は未熟で赤面ものだったが、展示作品は名品ぞろいの充実した内容となった。

 一度には展示できずに会期半ばでほとんどの作品を展示替えしたため、「想定外の作業だ」と輸送業者の営業担当者から渋言をもらったことも懐かしい思い出である。

 全ての点で今では考えられない大らかな時代の展覧会であった。しかし、この時の体験は、その後の学芸員生活にとってかけがえのない貴重な財産として、今も非常に役立っているといつも思っている。

※会期:1983年9月17日〜10月23日

美連協ニュース99号(2008年8月)より転載(※役職は掲載時)



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