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エミール・ガレ展
法隆寺宝物館を訪ねて一人驚喜 「相通ずる展示コンセプト」
水田順子 北海道立旭川美術館副館長
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エミール・ガレ展の展示風景

 1999年の春、フランス北東部の古都ナンシーで大規模に開催されたナンシー派展とロレーヌ地方を探訪する小旅行が実現した。メンバーは4人。97年秋から日本、アメリカ、ドイツの6会場を巡回したThe Glass Skin展を共同で企画したデュッセルドルフ美術館のヘルムート・リケ氏とその夫人、アメリカ、コーニング・ガラス美術館元キュレーターのスーザン・フランツ氏、そして筆者。ガラスを素材として最も意義深い仕事を展開する20作家を厳選し、Glass Skinというキーワードで結んだ国際展プロジェクトは忘れ難いもので、敬愛する友人との再会の喜びはひとしおであったが、一年後に国内有数のコレクションによるガレ展を控えていた筆者にとっては、ゆかりの地をたどり、情報、資料を収集するまたとない機会となったのである。

 その年の12月、資料の不足を補うため再度ナンシー派美術館を、そしてパリ装飾美術館、オルセー美術館、デュッセルドルフ美術館を今度は公用で訪ね、各館キュレーターの寛大な配慮と協力を得て貴重な資料を閲覧、複写させていただいた。ありがたさが身に沁みると同時に、おびただしい資料を読破することさえ怪しい自分にできることは何かを自問自答した。ガレについての新たな見解を導くことは難しいにしても、ガレへの愛着と経済力で名品が集中している日本の人々にガレの実像に近づく道筋を示し、一方、日本でのガレ受容と作品についての情報を発信することではないかと目標を定めた。

 冒頭のナンシー訪問の際に運よく発見したガレを紹介する優れたビデオフィルム(許可を得て日本語テロップを入れ会場内で上映)の中で、ガレが幼少の頃に親しんだ『生きている花々 Les Fleurs Animées』(同郷のグランヴィルによる美しい挿絵入り)を知った。植物学をはじめ自然科学に深く傾倒したガレの原点を知るためにもこれを入手できないか、価格のことも考えずに神田の古書店に網を張ってもらった。オープン間際、状態の良いセットが見つかり、店主の温かい計らいで破格の値段で譲り受けることができた。

 また一つの試みとして、モチーフの同定に北大の植物、昆虫、海藻それぞれの専門家の協力を仰いだりした。

 展示では、全国6会場巡回のコスト削減のためにケースのリースを活用することとしたが、光が命のガラスを最良のコンディションで見せるために、リース会社と検討を重ね、小型スポットライトを可動式、調光式とし、作品によっては反射光と透過光による大きな変化を見せる仕掛けをつくった。また、ガレ最晩年の傑作を360度、心ゆくまで鑑賞してもらうために考え抜いた末、単品ケースを格子状に配置し、自然光をトレーシング・ペーパー越しに取り入れて人工照明と併用した。

 その年の夏、かつて卒論で取り上げた法隆寺献納宝物のための新装成った東博内宝物館をようやく訪れることができたとき、格子状に並ぶ四十人体仏の展示を見て驚いた。光ファイバーによる照明や金銅仏を浮きたたせるドイツ製ガラスケースには及ばないながら、相通ずるコンセプトに一人驚喜した。

 ガレ展では巡回先を追うように前後で地震が発生し、一部コレクションの撤退も検討されるなど難題は尽きなかった。しかしこうしてふり返ると、人とモノとの出会いすべてがあらためてかけがえのないものに思われてくる。

※会期:北海道立近代美術館(2000年4月28日〜6月11日)
以降2001年6月まで東京、下関、宮崎、大阪、福山を巡回

美連協ニュース97号(2008年2月)から転載(※役職は掲載時)



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