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思い出の展覧会
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極東ロシアのモダニズム1918-1928
ロシア・アヴァンギャルドと出会った日本
滝沢恭司 町田市立国際版画美術館 学芸統括係長
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「極東ロシアのモダニズム1918-1928 」の
ポスター

 ロシア革命から100年を迎えたが、現在、日本で記念の美術展開催の計画が進行しているだろうか。「思い出の展覧会」として「極東ロシアのモダニズム1918-1928」展について書こうとしたとたん、ふとそんなことが気になった。

 この展覧会は革命後の極東ロシアで展開したアヴァンギャルドを実作品によって紹介し、併せてその地を経由してもたらされた美術に影響を受けた、大正期の新興美術について考えることを目的として企画した。筑波大学の五十殿利治氏、神奈川県立近代美術館の水沢勉氏、私の三人が中心となって現地で調査し、展示内容を決め、2002年に開催したが、今思えば絶妙のタイミングでの開催だったように思う。1990年代半ば以降には、ウラジオストク経由で来日したブルリュークやパリモフの活動を踏まえた大正期新興美術運動の研究の進展が見られたし、閉鎖都市だったウラジオストクですら外国人が訪問しやすい環境が整ってきていたからだ。また、その地で展開したアヴァンギャルドの実態など、国際的には未知の状態だった。

 当然我々の知識もわずかしかなく、半信半疑の気持ちからのスタートだった。気持ちに弾みが付いたのは、ポーラ美術振興財団の助成金を得て、1998年10月に、三人ではじめてハバロフスクとウラジオストクを訪ねたときだった。その後、都合5回ロシアを訪れ、何とか展覧会開催までこぎつけたが、その経緯は図録に掲載したのでここでは繰りかえさない。

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N.ナウモフによる革命軍のアジプロ・ポスターの展示
(町田市立国際版画美術館)

 展覧会準備中に仲間内だけでささやかに盛り上がったことを2つだけ挙げて、展覧会の思い出としておこう。

 ひとつは、「ビ・バ・ボBi-Ba-Bo」のこと。それはブルリュークが司会を務めるなどした、ウラジオストクにあった未来派キャバレの名称である。人を食った名称だが、それこそモスクワのキャバレで演じられた未来派劇「ヴァ・ダ・プVa-Da-Pu」などを連想させる、未来派らしい響きをもった名称だ。実はその名称を正確に言えるまでには、少し時間がかかった。「ビ・ボ・バ」だっけ、いや「バ・ビ・ボ」ですよ、「ボ・ビ・バ」じゃない?などといった具合で、未来派の魔術に撹乱されることしきりだった。

 もうひとつは、水沢氏が「ダスターズ」というグループ名を考え、ダスターズバッチを作ったことである。名称の由来は、美術史の網からこぼれ落ちた状態の近代の作家、作品、動向を拾い集める人たち程度の意で、「スターダスト」を文字って、「ダスト」と「スター」を重ね合わせて造語したということだったと思う。そのバッチはアルタイの馬の古代文様をもとに制作したリュバルスキーのリノカット版画をベースに、金工作家の長崎信博氏に制作してもらった銀製品。「バッチ売りのトム」のおかげで10人くらいはこのバッチを持っているはずだ。当時機会あるごとにそのバッチを胸につけて出かけたことを思い出す。

 いずれも余計なことだが、そんなこともあったがゆえに、思い出の深い展覧会となっている。

会期会場:2002年4月6日(土)〜5月19日(日) 町田市立国際版画美術館
本展は、宇都宮美術館、北海道立函館美術館を巡回。

美連協ニュース136号(2017年11月号)より転載(※役職は掲載時)



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