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思い出の展覧会
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「作家からの贈りもの」
影山千夏 高知県立美術館 学芸課チーフ
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にぎやかな展覧会カタログ。これらが箱に収められている。

 私の思い出の展覧会は、当館が10周年を迎えた年に担当した「作家からの贈りもの」である。この展覧会は、アーティストたちが、家族や子供たちのために作りあげたおもちゃや、アトリエで制作をするかたわら身近なもので無心に創り上げたささやかな造形物(便宜上これらを、おもちゃと呼ぶ)を、代表的な美術表現と併せて展示するというものだった。どこか別世界の存在のように受け取られがちな芸術家を、人間的な実像を感じる「もう一つの私的な世界」の側面から紹介してみようという、スケールの小さい視点からのアプローチで、新潟市美術館、札幌芸術の森美術館、企画会社らと共同で企画したものである。

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高知県立美術館の展覧会チラシ裏面 図版一つ一つにエピソードを添えて。

 猪熊弦一郎の針金などで作った「対話彫刻」、香月泰男の木っ端による《サーカス》シリーズ、書籍『おもちゃのいいわけ』にまとめられた舟越桂の小さな人形たちは、ご存知の方も多いと思う。このほか出品作家は、アレクサンダー・カルダー、パウル・クレー、本郷新、有元利夫、藤田嗣治、若林奮、ライオネル・ファイニンガー、パブロ・ピカソ。

 統一感があるような無いような、不思議な組み合わせになったが、これらの作家以外にも候補に挙がっては消えていく。「あの作家がこんなおもちゃを作っている」、各館が情報を持ち寄っては話し合いを重ねた。おもちゃとはいえ美術家が作るものだから、作品か否かその判断の線引きは際どく、最後は皆の感覚で推し量る、というあやふやなものが頼りとなることもあったが、最終的にはその結果が、皆何となく腑に落ちたのだから不思議なものである。

 中でも格別な思いがあるのが、彫刻家若林奮の一連のものである。若林さんにも子供たちに作ったおもちゃがあると知ったときは、厳格であり時に難解ともいわれる彼の作品とのギャップに驚いたが、まさしく求めていた世界であった。若林さんは、子供の求めに応じておもちゃを作ったり、時には子供のエピソードを絵本にしてみたりと、そんな親子のやり取りの思い出話を、二人のお嬢様が、展覧会カタログのための小さなエッセーに寄せてくれた。

 一度この企画について若林さんから電話をいただいたことがあった(いや、こちらからかけたのか今は定かではない)。ぼそぼそとしゃべることば少ない若林さんだったが、展示を楽しみにしてくれていることが受話器の向こうから伝わってきた。この企画が受け入れられてよかった、安堵の気持ちでいっぱいだった。展覧会を心待ちにしてくれていた若林さんは、開幕を前に他界された。若林さんに見てもらいたかった。

 展覧会図録も一風変わった体裁となった。作家ごとにデザインを変え、仕様もばらばら、それらを箱に詰めるというスタイル。ギフトボックスのイメージである。職員総出の箱詰め作業は大変だったが、それも今では良い思い出である。

会期:2004年5月30日(日)〜7月25日(日) 高知県立美術館
新潟市美術館、札幌芸術の森美術館、香月泰男美術館ほか巡回

美連協ニュース131号(2016年8月号)から転載(※役職は掲載時)



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