読売新聞へようこそ■イベント
美術館連絡協議会 美連協について English 美術館連絡協議会
-
思い出の展覧会
バックナンバー
舟越保武彫刻展−まなざしの向うに−
大野正勝 岩手県立美術館 首席専門学芸員兼学芸普及課長
picture
舟越保武《長崎26殉教者記念像》岩手県立美術館での展示

picture
舟越保武《聖クララ》岩手県立美術館での展示

 2011年は岩手県立美術館の開館10周年だったが、震災復興予算確保のために平成23年度の企画展予算を全て県に返上しなければならなくなった。予定していた舟越保武展を含め、全ての企画展の開催中止を余儀なくされる。それでも何とか舟越展を開催したい。そんな思いによって、美術館連絡協議会や関係各位のご協力をいただいて、巡回3館の協力のもと2014年10月から岩手県立美術館で立ち上げることができた。その後は郡山市立美術館へ巡回。最終会場の練馬区立美術館では開館30周年を記念する展覧会として開催され、会期中の8月21日には皇后陛下が本展をご鑑賞されたこともあって評判となり、多くの方々にご覧いただくことができた。3会場通じて図録の売れ行きも良く増刷となった。

 今考えてみると、大震災によって舟越保武展の開催が叶わなかったことは、どこか舟越の制作を暗示しているようにも思う。自然の猛威の前で人の存在の小ささと儚さを思い知らされた。人の命の儚さについて、舟越保武はしばしばエッセーに記している。渓流釣りが好きな舟越は、あるとき大きな岩のそばで釣りの疲れを休めていた。そこに一枚の山桜の花びらが飛んできてこの岩肌に止まり、すぐにまた風に吹かれて飛び去ってしまう。その時の情景をエッセー「巨岩と花びら」に書いている。何万年もそこに存在してきた岩から見たら、花びらはせいぜい5日間くらいしか形を保てないだろう。何とも儚い。そしてまた自分自身も同じような存在なのだと深く心に思ったというもの。

  そんな舟越の初期から最晩年までの彫刻を何年にも亘って眺め、書かれたエッセーなども可能な限り読み、舟越の心持を想像して思ったことは、永遠なるものに対する叶わぬ思いや哀しみ、無常観といったものを心に抱いてきた人なのではないだろうかということ。その原点は、大正から昭和初期にかけて青少年期を過ごした盛岡の自然や風土、生活のなかで培われた感覚や感情によるものだろう。そして戦後にはカトリックの洗礼を受け、深い信仰心を持った。

  本展開催を機に舟越保武の彫刻作品をあらためて眺めた。永遠と言う言葉が浮かんできそうな穏やかな表情で静かに佇む端正な面立ちの女性像。信仰をテーマにした歴史的人物像。あるいは不条理な境遇のなかで逝った人たちの像が一心に天を仰ぐ。舟越の中にある遠いものへの果せない思い。尊いものへの敬虔なる気持ちや悼みというものが、そうした人物像を作らせたのではないか。それらを見る私たちもまた、永遠なるものに対する限りある儚い存在、愛おしいものに対する叶わぬ存在なのだ。

  「静かなものを作りたい」。そう語る舟越の彫刻作品は、動きも少なく、その眼差しも穏やかに、ここではない遠いものを見つめるかのようだった。

会期:2014年10月25日(土)〜12月7日(日)岩手県立美術館
その後、郡山市立美術館、練馬区立美術館を巡回

美連協ニュース130号(2016年5月号)から転載(※役職は掲載時)



-
美術館連絡協議会 〒100-8055 東京都千代田区大手町1-7-1 読売新聞東京本社事業局 TEL.03-3216-8664 FAX.03-3216-8978