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フェリシアン・ロップス展
髙木幸枝 町田市立国際版画美術館担当課長兼学芸係長
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上:「まなざしは、悪魔か神か…」ロップスの世界を紹介するチラシ
下:町田市立国際版画美術館での本格的な回顧展

 2001年2月6日午前7時7分、パリ北駅発の列車に乗ってベルギーのナミュールへ向かう。ふと、家に残してきた小学1年の息子がひとりで鍵を閉めて登校できるだろうかと不安が脳裏をよぎる。息が白く凍るような厳しい寒さの朝だ。

 このハードスケジュールの出張につきあって下さったのは、高松市美術館の毛利直子さん(当時)と展覧会プロデューサーの今津京子さんだ。行先はフェリシアン・ロップス美術館。翌年に開催する巡回展のための調査と打ち合わせが目的だった。

 ロップスの故郷のナミュールは、19世紀当時を偲ばせる風景がいくつも見つけられる場所だ。細い路地の先に趣深い小さな美術館がある。しごく明るい雰囲気で、悪魔主義やエロティシスムで知られる彼の美術館とは思えないほどだ。ベルナデット・ボニエ館長を筆頭に女性ばかりの職員が醸し出した、特別な空気だったのかもしれない。

 展示ケースのなかにロップスの父が熱心に栽培した草花類の標本があった。捺染の綿織物の商売で財をなしたが、一人息子がまだ15歳のときに他界した。だからロップスは成人すると父の莫大な財産を受け継いで、自ら出資して週刊誌を創刊する。政治や社会を揶揄するリトグラフ作品をさかんに制作し、その後は熱心に銅版画技法を研究した。版画に使うグランドの成分や腐蝕の具合など、緻密な研究にあけくれる。その痕跡は美術館のいたるところで発見できる。

 実は1998年が没後100年にあたる年だったこともあり、ベルギーやフランスなどでロップスの回顧展が相次いで催されていた。そうしたなか、2002年に美連協企画の展覧会としてロップス展が実現した。高崎市美術館、伊丹市立美術館、町田市立国際版画美術館、高松市美術館の4館を半年間にわたり巡回したが、これほど大規模なロップスの回顧展は日本で初めてのことだった。

 当初から意欲的だったのは、伊丹市立美術館の故・大河内菊雄館長だ。ロップスの作品の魅力や、『方寸』と『白樺』に紹介された記事のことなどを熱く語られていたことが思い出される。

 展示構成については、相当に苦労することになった。ベルギーの政治や社会を諷刺した初期の版画や、ワロン地方の自然を描いた写実的な風景画をどのように見せるのか。真骨頂ともいえる毒と猥雑さをはらんだエロスの世界を、どのレベルまで見せてよいものか。最終的に欲張って7章仕立てにしたのは、ロップスの多彩さを見せたかったからだ。

 チームワークがよい巡回展で、本当に楽しい仕事だった。ロップス美術館のボニエ館長やカルピオーさん、高崎市美術館の柴田純江さん、伊丹市立美術館の藤巻和恵さん、高松市美術館の毛利直子さん、美連協の岡本智恵子さん、翻訳と通訳の上田久美子さんほか、多くの方々が関わって仕上げたロップス展だ。なぜか女性ばかりだったのが、とても印象的だった。

会期:2002年7月27日〜 9月8日 町田市立国際版画美術館
本展は、高崎市美術館、伊丹市立美術館、高松市美術館を巡回

美連協ニュース125号(2015年2月号)から転載(※役職は掲載時)



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