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おばけのマ〜ルとちいさなびじゅつかん
なかいれい 子どもたちと三岸美術館へのおくりもの
苫名直子 北海道立文学館主任学芸員(前北海道立三岸好太郎美術館学芸員)
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上:絵本に入り込んだような楽しいディスプレイの展示会場
下:『おばけのマ〜ルとちいさなびじゅつかん』
え・なかいれい ぶん・けーたろう
中西出版 2008 年

 4歳の娘が中耳炎になった。耳鼻科には子どもが多く、待合室は絵本が充実している。鮮やかな青い表紙の1冊を手にとった。『おばけのマ〜ルとまるやまどうぶつえん』。「え? 札幌円山動物園のこと?」冒頭は、夜の円山から見下ろした「キラキラのあかり」。まぎれもなく札幌の街だった。円山にすむおばけのマ〜ルが、いろいろな動物と話して友達になっていく。身近な場所を舞台にこんなにすてきな絵本が…と深く心に刻んだ。

 2008年、三岸美術館をとりまく環境はきわめて厳しかった。「存続の意義は?」といった声も聞こえてきた。意義は大ありだ。遺族が思いをこめて寄贈した三岸好太郎コレクションと、その展示に捧げられた個性的な建物は、ともにすばらしい。観光客にとっては北海道文化を強く印象付けられる場所であり、地元にとっては郷土の誇る画家の軌跡を一望できるかけがえのないスポットだ。とくに子どもたちに知ってほしい。しかし、その存在、良さを知らしめるだけの予算はない。職員も減る。八方塞がりだった。

 秋の特別展図録の打ち合わせが一段落した時だった。編集担当者を相手に雑談する中で、先日の絵本の話を持ち出した。つい、「マ〜ルがここにも来ればいいな。」と、つぶやきも出る。すると、少し間をおいて「では、行きましょうか。」の返事。「…!?」 こんな偶然があるだろうか。私が話していた相手は、絵本の作者・けーたろうさんその人だった。

 その後はとんとん拍子。マ〜ルシリーズの新作として、三岸美術館を舞台に『おばけのマ〜ルとちいさなびじゅつかん』の制作が決定し、絵担当のなかいれいさんが、館内外をくまなくスケッチした。そして同年12月、刊行。マスコミ各社で取り上げられ、急に突破口が開けた感じがした。

 絵本は見事な出来ばえだった。青い蝶がマ〜ルを美術館へと誘いざなう。《檸檬持てる少女》、《マリオネット》、《道化役者》が次々絵から飛び出し、次第にハメをはずして大騒ぎ。少し反省の後《オーケストラ》をじっくり見るうちに、すてきなことが… 。最後は《飛ぶ蝶》から蝶が1匹飛び立っていくシーンだ。最初にマ〜ルを誘いに来る蝶である。(《 》内は、いずれも三岸の代表作。)

 年明け、急遽この絵本の原画展を開催した。なかいさんの発案で、まるで絵本の中に入り込んだかのような楽しいディスプレイが実現。多くの子どもたちが訪れ、メッセージボードは満杯になった。以後、マ〜ルは展覧会やイベント、出前講座に繰り返し登場して、子どもたちと三岸美術館の橋渡しをしてくれるようになった。

 絵本のなかの美術館が実在する。そこはファンタジーの世界と往き来できる特別な場所だ。子どもたちと結ばれた三岸美術館は、これからも札幌のキラキラのあかりのなかで輝き続けるだろう。

会期:2009年1月23日〜 3月27日 北海道立三岸好太郎美術館

美連協ニュース124号(2014年11月号)から転載(※役職は掲載時)



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