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思い出の展覧会
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前衛の日本
1950年代の具体グループ
尾﨑信一郎 鳥取県立博物館副館長兼美術振興課長
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上:白髪一雄の《赤い丸太》を設置する情景。奥に元永定正の《水》

右下:オープニングで演じられた「具体へのオマージュ」というパフォーマンス。白髪一雄の《超現代三番叟》の衣装を着用。

左下:会場内でオブジェを制作する元永夫妻

 四半世紀を超える学芸員生活の中で四つの美術館や博物館に勤務し、手がけた展覧会は数多い。私にとって大切な展覧会ばかりであり、一つを選ぶことは難しい。別々の美術館で企画した「重力」「アウト・オブ・アクションズ」「痕跡」という三部作。学生時代に展覧会を見て感銘を受け、不思議な縁で再び私自身が関わらせていただいた堂本尚郎さんや辻晉堂さんの個展。あるいは自分と同じ若い世代の作家と一緒に作り上げた思いのある「アート・ナウ」。どれも忘れがたい展覧会であるが、さいわいいずれも日本語のカタログが残されており、今日でも参照することができる。ここでは日本ではもはや私を含む数人の記憶の中にしか残されていないであろう展覧会について書き留めておきたい。それというのもそこで繰り広げられた試みこそ、「記憶の再現」という展覧会の本質と深く関わっているからだ。

 1990年、私はローマとダルムシュタットで具体美術協会の回顧展に関わった。国際交流基金が企画し、ローマ国立近代美術館の館長、マチルデンヘーエ美術館の館長らと私の共同キューレーションによる 展示である。作品の大半が当時私の勤務していた兵庫県立近代美術館から出品されたこともあり、私はクーリエを兼ねてローマに赴いた。具体美術協会は先日、ニューヨーク、グッゲンハイム美術館でも紹 介され、今日でこそ世界的に名の通ったグループであるが、これは早い時期のヨーロッパにおける紹介であった。特筆すべきことは展覧会にあたって作品のみならず、9名の作家を現地に招いてパフォーマンスやオブジェの再現を試みた点である。村上三郎の《紙破り》や元永定正の《水》のようによく知られた作品もあれば、嶋本昭三の《物体の打壊》や吉田稔郎の《如雨露による描画》といった私の知る限り、グループ解散後、この機会のみに再現された作品もある。オープニングの席上ではかつて白髪一雄が「舞台を使用する具体美術」で演じた《超現代三番叟》のコスチュームをまとってイタリア人青年がパントマイムを演じ、作家本人を驚かせた。

 通常であればクーリエの業務は作品のチェックや展示の状況の確認といった作品相手の仕事に終始するが、ローマで私はオブジェの材料の買い出しや試作への立ち会い、会食の段取りといった同行した作家たちの相手も務めた。もちろん以前より親しくしていただいた作家の方々であるから、展覧会の準備はさながら楽しい合宿のようであった。作品に使用する石を採取するために郊外に出かけた元永夫妻よりお土産にモッツァレーラチーズをいただいたり、ナイトキャップの紹興酒が手に入らないと困っていらっしゃる白髪さんのお相手をしたり、楽しかった思い出は尽きない。それから20年以上が経過し、同行した作家の方々はほとんどが鬼籍にお入りになった。展示された作品は今に伝えられているが、展覧会は私の記憶の中にしかない。

※会期:
1990年12月6日〜1991年2月28日 ローマ国立近代美術館

美連協ニュース119号(2013年8月号)より転載(※役職は掲載時)



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