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思い出の展覧会
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奈良美智−From the Depth of My Drawer−
今 香 米子市美術館 統括学芸員
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「奈良美智−From the Depth of My Drawer−」米子会場より ©NARA Yoshitomo

 この展覧会は当初、現代美術作家の奈良美智(1959〜 )による写真作品を、とスタートした企画だったが、最終的には、奈良自らが「引き出しの奥から」選定した、写真をはじめ絵画や素描、彫刻作品等、旧作〜近作により構成されたものとなった。

 私にとっては、学生時代からその活動に注目していた作家の作品を自館に展示できる、学芸員冥利に尽きるものであった。

 しかし、立ち上げ館である原美術館が持つ、旧邸宅特有の親密な雰囲気とはかけ離れた「手術室のような殺風景な会場」と難色を示された当館での展示は、開幕ギリギリまで作業が続く、想像以上に難しいものでもあった。

 主会場の約29m× 11mの展示室には、豊嶋秀樹を中心としたgraf(当時)のメンバーの手により、既存の壁面全てを白く塗った廃材で覆った、街並を想起させる空間が作り出された。隣接する廃校に眠っていた古い黒板は、来場者の感想を残すコーナーとして蘇った。

 特に、当館所蔵の植田正治等がこどもや犬等をモチーフに1940〜70年に撮影した、モノクロの写真作品を奈良が5点選定、自作と合わせて展示した。この、時代を超えて通底する美意識を垣間みることが出来る米子独自の展示構成は、郷土作家の再評価の場ともなった。

 会場に到着した作家の表情が会場を前に笑みがこぼれたときの安堵感は、言葉で言い表せないものであったが、間髪入れずに絵本原画追加展示の提案や、監視やスライド用客席及び映写機の台として、小さな古い木の椅子を近隣の小学校から急遽手配をする等、直前まで対応に追われた。

 この様々な構成・演出により、当館も「手術室」から、親密な空気を纏った「展示空間」へと変身、内覧会の頃には、奈良作品たちも、居場所を得て、安心した表情をしているように見受けられた。

 会期中は、作品の高評価は勿論、その展示構成に驚いた来場者から「何で米子なのに、こんな展覧会が出来たの?」とよく尋ねられた。

 確かにライブイベント等、未経験の事業も多く、挫けそうな時もあったが、「良い展覧会を作り上げよう!」との強い思いに力をもらい、実現不可能と思えた難事も、いくつも突破出来た。また、米子人の進取の気質が相乗効果を生み出し、想定以上の成功となった。実は、地元来場者が多いことに、私自身が一番驚いた。

 この成功が、当館の現代美術系の展覧会を開催する素地となり、現在に至っている。

 今でも特に奈良の展覧会はできるだけ足を運び、どのような展示がなされているか興味深く鑑賞しつつも、心の奥底で自館での展示を誇らしく思い出し、一人ニヤニヤしていたりしている。

※会期・会場:2005年2月10日〜3月21日 米子市美術館
本展は、原美術館(東京)、金津創作の森(福井県)、米子市美術館、吉井酒造煉瓦倉庫(青森)、ロダンギャラリー(ソウル)を巡回

美連協ニュース116号(2012年11月号)から転載(※役職は掲載時)



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