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ダニ・カラヴァン展
野中明 長崎県美術館事業企画グループリーダー
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ダニ・カラヴァン《梯子≫2008年(長崎県美術館「光の回廊」におけるインスタレーション)

 イスラエルの作家ダニ・カラヴァン(1930−)の77歳の誕生日を記念し開催されたこの展覧会は、イスラエルのテル・アヴィヴ美術館、ドイツのマルティン・グロピウス・バウ、そして日本の世田谷美術館と長崎県美術館、計4館を巡回する国際巡回展であった。既に展覧会や実際の作品によって彼のサイトスペシフィックな環境彫刻は日本に紹介されていたが、本展は環境彫刻に止まらず初期から最新のものまでカラヴァンの仕事を網羅的に紹介する初の回顧展として企画された。

 カラヴァンは当初画家を目指し、テル・アヴィヴ、フィレンツェ、パリで絵を学んでいる。展覧会は回顧展と呼ぶに相応しく、13歳の時に措いた水彩の風景画にはじまり初期の素描、油彩画、フレスコ画、テンペラ画、版画、絵本や新聞、雑誌の挿絵、1960〜70年代の舞台美術、1960年代以降の壁画、小型彫刻、レリーフ、環境彫刻、インスタレーションと、目が回るように展開するカラヴァンの仕事をすべて紹介しようという、ある意味とても無謀な構成。彼自身、どのように展覧会をデザインしてよいのか分からず「恐ろしい底なし谷の上に宙づりになっている」と言うほどだった。また、若い時は左翼のアクティヴィストとしてキブツ・ハレルの建設に携わり、イスラエルを代表するダンス・カンパニーであるバットシェバ舞踏団の創立メンバーでもあるなど、それまで全く知らなかった彼のバックグラウンドを知るにつれ「とんでもない展覧会に関わってしまった」と、私の自信の無さから来る後悔にも似た感情がわきあがってくるのを押さえることができなかった。

 さらに追い討ちをかけるように、4会場それぞれでオリジナル・インスタレーションを展開することが決定。ちなみに当館におけるインスタレーションは6点。しかもそのうちの1点は当館の敷地を流れる運河を使用し、木造の廃船が必要であると言う。ただでさえ予算が厳しい中とても実現できそうにないと考えた私の頭には、県の港湾当局から許可が下りないという理由で逃げてやろうというズルい考えが一瞬よぎったのは事実。紆余曲折を経て何とか全て実現できたものの、展覧会オープン当日にそのインスタレーションを見ながら作家が口にした一言には背筋が凍りついた。日く「お前はきっと行政の許可が下りないと言い出すにちがいないと思っていたが言わなかった。まあ、少しは見どころがある」。喜んで良いのか悪いのか。土木工事のような規模の仕事を世界各地で展開する百戦錬磨の作家にかかっては、私のような者は本当に子ども同然だった。

 会場設営中に「明日までにコレとコレが完成していなかったら、その足でテル・ア ヴィヴに帰る!」と吼えだすカラヴァンに、心の中で「帰れば」と毒づくなど数々のシーンを懐かしく思い出すが、彼には本当に鍛えられ、学芸員として一回り大きくしていただいたような気がしている。忘れがたい恩人である。

※会期:
2008年12月6日〜2009年1月18日 長崎県美術館
巡回:
2008年9月2日〜10月21日 世田谷美術館

美連協ニュース113号(2012年2月号)から転載(※役職は掲載時)



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