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思い出の展覧会
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東と西の架け橋−風土と芸術 セント・アイヴス展
清水真砂 世田谷美術館学芸部長
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「セント・アイヴス展」バーナード・リーチの作品を見る濱田庄司夫人(中央)、1989年

 25年近く、毎年のように大なり小なり展覧会を担当してきた。一つ一つの展覧会には、実に様々な思い出がつきまとっている。とりわけ、初めての海外展は印象深く、様々なことが鮮やかに記憶に刻みつけられ、その後の学芸員生活の原点となった。

 初めて海外展の一部を担当させてもらったのは、1989年の「東と西の架け橋−風土と芸術 セント・アイヴス展」であった。チーフは塩田純一さんであったが、知識も経験もない私に陶芸部門を任せて下さったのは、当時の大島清次館長の果断と塩田先輩の度量の大きさであっただろう。

 調査のため来日したテート・ギャラリーのデイヴイッド・ブラウン博士やヴィクトリア・アンド・アルバート美術館のオリバー・ワトソン博士、イギリス側エージェントで元ブリティッシュ・カウンシルのイアン・バーカー氏のお伴で、大島館長や塩田さんと共に益子に出かけ、濱田庄司夫人にお目にかかり、濱田の作品が生まれる暮らしに触れることができたのは、得難い経験であった。ワトソン博士の誠実な調査にも深い感銘を受けた。1987年には美術館連絡協議会の海外研修でセント・アイヴスを訪れ、絵画も彫刻もまさしくセント・アイヴスの風土から生まれたものだということを実感した。

 「セント・アイヴス展」は、兵庫県立近代美術館、神奈川県立近代美術館を巡回し、世田谷美術館は最終会場であったが、幹事館だった。図録作成、作品借用、輸送の手配など、塩田さんはさぞ大変だっただろうと思うが、私もいきなり陶芸部門の担当となり、不思議な成り行きで文章まで書くことになって無我夢中で取り組んでいた。挿図の写真を依頼するのに、時差のあるイギリスに、時間外に勇を鼓して電話をすると、しばらくして先方から入手可能な写真のコピーがニョロニョロとFAXから出てくるのに感激したり、3館集まってのホテルでの出張校正には、他館の先輩学芸員の仕事ぶりに圧倒されるばかりであったり、全て新鮮で発奮を促される経験ばかりだった。

 イアン・バーカー氏作成の英文による出品依頼状の英国流の繊細な心遣い、海外展の陶磁器のクレートやクーリエ対応も初めての経験だった。

 工芸は国内の借用作品も多く、ワトソン博士の指示に従って、出品依頼をしたが、展覧会責任者と一緒に挨拶に来るようにと言われ、緊張しながら塩田さんと一緒に糸魚川まで出かけたのも良い思い出となっている。そのご所蔵者とはその後もお付き合いが続いた。ワトソン博士の指示した作品の借用ができず、若気の至りで勝手に代替作品を提案したり、塩田さんはきっとはらはらなさったことだろう。

 開梱、点検をワトソン博士と行い、お互いの陶器の梱包方法が全然異なるのに驚いたり感心したり、英語の点検用語を覚えたりなど、その後もこの経験は随分役立った。

 撤去の時、作品が梱包されて、あっという間にがらんとしてしまった展示室で、当時の兵庫県立近代美術館中島学芸課長が、「展覧会は何度やっても終わって行ってしまうときは淋しいねぇ」とおっしゃった言葉が今でも心に残っている。

※会期:
1989年7月2日〜8月27日 世田谷美術館
巡回:
1989年4月8日〜5月7日 兵庫県立近代美術館
1989年5月20日〜6月25日 神奈川県立近代美術館

美連協ニュース109号(2011年2月号)から転載(※役職は掲載時)



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