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思い出の展覧会
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身を削った展覧会
越智裕二郎 兵庫県立美術館参与
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左上「東アジア/絵画の近代―油画の誕生とその展開」図録
右上『松方コレクション西洋美術作品目録』
左下「海のシルク・ロード」展 図録
右下「松方コレクション展」図録

 振り返れば32年の学芸員人生の中で、身を削った展覧会が3本ある。神戸市立博物館の開館記念展となった「海のシルクロード」(1982)、「松方コレクション」展(1989)、及び静岡県立美術館での「東アジア/絵画の近代―油画の誕生とその展開」(1999)である。

 「海のシルクロード」展は神戸市立博物館が初めて海外から作品を借用した展覧会。当時はファクスもなく駆け出しの学芸員にとっては学ぶことばかり、オランダのアムステルダム国立美術館や重要文化財を含む南蛮美術関係など約400点余の当該展は、その後の学芸員人生の基礎となった。

 次の「松方コレクション」展は神戸市制100周年記念として、松方幸次郎が初代社長を務めた神戸新聞社と調査研究チームを組んだ。旧松方コレクションはフランスに残された17点以外にアメリカに流出した作品も多く、同国調査の折、N.Y.の画廊から販売先の某大会社に電話をかけてもらうと、翌日朝8時のアポイント。会うや熱を込めて展覧会趣旨の説明をしたところ出品OKどころか、その作品をポスターにしてくれたら印刷代を払うとまで言われ、アメリカ流のスピードに驚いた。展覧会自体は借用交渉が困難を極め、直前まで不眠の日々が続いたが、神戸新聞の調査と相まって松方コレクション研究の基礎が築けたのではないかと考えている。同コレクションの全貌を窺(うかが)い得る『松方コレクション西洋美術作品目録』も神戸市博総務課の配慮で作成させていただいた。本書はある事情から暫(しばら)く神戸市立博物館の地下に眠ることになったが95年の阪神大震災で水没、ほとんどが廃棄となった。現存する本は稀覯(きこう)本である。

 「東アジア/絵画の近代―油画の誕生とその展開」展は中国・台湾・朝鮮半島・日本という東アジアでの、アヘン戦争以降の近代化の中でどのように油画を定着させ発展させてきたかを構造的に見ようという展覧会。もともとは静岡県美の10周年記念予定であったが、天安門事件後の中国での作品所在場所の探求の難しさ、韓国の厳しい反日感情にずるずると遅れたが、朝鮮半島(実質は韓国)については金大中大統領就任により対日感情が緩んだ折、同僚の李美那女史が借用契約にまでこぎつけてくれた。中国は広東、上海地域は当該展の意義を理解してくれたものの北京については文化部の理解を得るのに時間を要した。開催直前の2月、本誌に寄稿した当該展解説に、微妙な中台問題に無頓着な編集子がつけた「中・台・朝・日」という見出しに中国大使館・中国文化部は激怒、中国からの出品を取り止めるとの電話があり(彼らの対応は冊子が東京から静岡館に届くより早かった)、館長以下対応に追われた。館長・下山学芸部長が直ちに中国へ飛び、契約に中国・台湾を同列に扱った広報があれば作品引き上げという条件がついた。広報については慎重にならざるを得ず、担当として歯がゆい思いであったが、評価が聞こえてきたのは最終会場の福岡アジア美術館に巡回したころであろうか。しかし本展の意義は次第に浸潤し、私も本展で得た研究脈で台北・上海で講義の機会も得た。今後も東アジアの研究の輪は広がり密になっていくことだろう。今では本協会に大変感謝している。

※会期:
「海のシルク・ロード」展
1982年11月3日〜12月19日 神戸市立博物館
「松方コレクション展」
1989年9月14日〜11月26日 神戸市立博物館
「東アジア/絵画の近代―油画の誕生とその展開」
1999年4月10日〜5月23日 静岡県立美術館
(兵庫県立近代美術館・徳島県立近代美術館・宇都宮美術館・福岡アジア美術館にも巡回)

美連協ニュース106号(2010年5月号)から転載(※役職は掲載時)



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