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思い出の展覧会
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海外単独自主企画展
−カタルニアのミロからソフィア、オァハカを振り返る−
向山富士雄 山梨県立美術館学芸課長
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ミロ美術館レジストラー ジョルディー・ジュンコサと作品打ち合せ

 “想い出の展覧会”を振り返ろうとすると、既に50も半ばにさしかかった筆者にとって、なかなか一つの展覧会では語りきれない。そこで、これまでに経験した単独開催による海外自主企画展の中からいくつかの展覧会を思うままに記すことにした。

 私が最初に経験した海外単独展覧会は、バルセロナのミロ・ファンデーションの作品で構成した『ミロ版画1933−1963』である。1978年の冬に初めて訪れて以来、スペインのカタルニア地方は、その後様々な機縁もあって今日まで私がもっとも多く訪問する機会にめぐまれた都市でもある。‘90年代に入って間もない頃、『ダウアル・セット』のメンバーを中心に、カタルニア第2世代の作家たち(ラフォルス・カサマダ、エルナンデス・ピジュアン、ジュゼップ・ギノバルなど)に会うために数回にわたって渡西していた私は、この頃にミロ・ファンデーションのロサ・マリア・マレ館長やダリ財団のモンセ・グリオールをはじめ、他にもラ・カイシャ、州立美術館、ピカソ美術館の学芸員と知遇を得ることになった。

 その中でミロ展は4年間の交渉を続けた後、オランダとイタリアの巡回展終了を待って‘96年にやっと実現させた思い出多き展覧会となった。作品調査、出品・予算交渉、クレート、トランスポートの手配から輸送手続き、契約にいたるまで様々な事務処理をスタッフと共に日々悪戦苦闘した。そして、‘99年には同じカタルニアのダリ・ファンデーションとの巡回展覧会も実現するが、ここではダリの著作権を巡って国際裁判にまで巻き込まれるという、おまけつきの苦い経験までした。これらの経験は、良い意味で後の開館20周年記念展『ミレーと農民画の伝統』へと引き継がれ、様々な労苦を背負いながら館員一同が一つになって大きな海外展覧会を遂行出来た。

 冒頭に触れたカタルニア第2世代の作家たちとの交流は、その後も世界で活躍する第一線級の現代作家たちの大きな情報源ともなって、メキシコのホセ・ルイス・クエヴァスやオアハカのフランシスコ・トレドを筆頭に世界の版画事情を日本に紹介する一つのきっかけともなった。‘99年にはメキシコ(メキシコ国立版画美術館、オァハカ州立美術館協力)現代版画、2004年にはブルガリア現代版画(ソフィア・ブルガリア美術家協会協力)を、それぞれ日本の現代版画に比較する展覧会として成立させていった。

 経済的に厳しい昨今の日本の美術界にあって、学芸員自らが現地で調査しながら、夢を実現するための海外との実務経験はなかなか難しいと言わざるを得ない。しかしである。規模は小さくも単独開催による海外展覧会は、10の巡回展を経験する以上に意味があると断言しよう。

※会期:
『ミロ版画1933−1963』1996年10月5日〜12月1日
山梨県立美術館
『ミレーと農民画の伝統』1998年9月26日〜12月6日
山梨県立美術館

美連協ニュース105号(2010年2月号)から転載(※役職は掲載時)



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