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思い出の展覧会
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揺れる女/揺らぐイメージ フェミニズムの誕生から現在まで
前年、調査・出品交渉でフランスへ 懐かしい個性的な画廊主たち
小勝禮子 栃木県立美術館学芸課長
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揺れる女展会場、笠原恵実子《PINK》
手前はヤナ・スターバック《マジック・シューズ》

 19世紀フランス版画を専門としていたわたしが、現代美術まで視野を広げたのが、「死にいたる美術−メメント・モリ」展(1994年、町田市立国際版画美術館と共同企画)だったが、そこにジェンダーとセクシュアリティの視点を加えたのが、この「揺れる女/揺らぐイメージ」展だった。第1部は19世紀フランス・イギリスの絵画と版画、第2部はシュルレアリスム、第3部が20世紀末:現代美術という構成で、「描かれた女性像」から、「自ら描く女性」へという時代・社会の変遷を追ってみた。

 栃木県立美術館の単独企画だったが、ちょうど当館の開館25周年という節目の年でもあり、展覧会予算が例年よりいくぶん多めについた。わたし個人でも鹿島美術財団の助成金を得て、前の年にフランス美術調査と出品交渉に出かけることができた。

 ブーグローなどのサロン絵画から、シュルレアリスムのハンス・ベルメールやレオノール・フィニの絵画、クロード・カアンの写真、20世紀のアネット・メサジェの《ドレスの物語》やヤナ・スターバックの鎖のついたハイ・ヒールなど、パリの画廊や個人所蔵家から直接作品を借りることができ、展覧会の膨らみができた。それぞれ個性的なパリの画廊主たちのとのやり取りもなつかしく思い出される。そしてパリ在住のアーティスト、オノデラ・ユキさんのモンマルトルのアパルトマンにお邪魔して、《古着のポートレート》を撮影した狭い窓を見たりしたのだが、その後オノデラさんはパリ市のアーティスト助成により、左岸13区のゆったりした住居兼アトリエに移っている。

 こうして名前を挙げると、その後の活躍の目覚しいアーティストばかりで、当館としては珍しく充実した予算に裏付けられた展覧会であった。美連協の第1回カタログ論文賞を受賞できたのも、ありがたい思い出である。

 そしてこの展覧会を境に、わたし自身の興味は日本近代の女性画家にシフトすることになった。「揺れる女」展の展評をきっかけにイメージ&ジェンダー研究会を知り、ジェンダー論研究者の千野香織さん、若桑みどりさん(お二人の早逝が悔やまれる)をはじめ、同世代の大学研究者から若い学生まで親しい研究仲間ができたのが、大きな支えとなった。続いて実現できたのが、「奔(はし)る女たち 女性画家の戦前・戦後 1930−1950年代」(2001年)と「前衛の女性1950−1975」(2004年)である。

 現在は、視野をアジア諸国に広げて、アジアの女性アーティスト展を近い将来に開催するのを目標としている。韓国はたびたび、フィリピンは昨年初めて訪れる機会があったが、これから中国、台湾、シンガポールなど、いまどんどん変わりつつあるアジアの中の女性の表現を見つめる調査を進め、日本の現代アーティストたちへの刺激となるような展覧会を実現するのが夢である。

※会期:1997年7月20日〜9月28日

美連協ニュース100号(2008年11月)より転載(※役職は掲載時)



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