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思い出の展覧会
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石の街うつのみや−−大谷石をめぐる近代建築と地域文化
橋本優子 宇都宮美術館 主任学芸員
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フランク・ロイド・ライト(設計)
「旧・帝国ホテル ライト館」の柱
竣工1923年、博物館明治村蔵

 「思い出」には「幅」がある。その内容や濃度によって、ごく最近の出来事であっても「思(重)い出」となり、逆に、そのことが起こった時点で「思(想)い出になるだろう」と確信しても、その後、忘却の彼方に追いやられる事柄は数え切れない。

 本年1月8日から3月5日まで、当館で開催された宇都宮美術館開館20周年・市制施行120周年記念「石の街うつのみや――大谷石をめぐる近代建築と地域文化」は、まさに終わったばかりの展覧会だが、「石」をめぐる新旧の「思い出」が積層したものである。

 そもそもは、2006年に博物館明治村(愛知県犬山市)で「旧・帝国ホテル ライト館」(竣工1923年)の遺構、それも移築・復元された「中央玄関」ではなく、写真でのみ往年の姿を窺い知ることができる「食堂」の忘れ形見――構造柱や大谷石装飾に触れ、これらを「石の街」に里帰りさせてやりたい、と思ったことが始まりだった。当時、柱や装飾は「中央玄関」の屋外、草の上に横たわっていた。程なくして「柱」は、INAXライブミュージアム(愛知県常滑市)の企画展のために、INAX(現・LIXIL)で修復され、自立する作品(立体)として甦る(2007年)。そして、2本の「柱」のうち1本は、このことが縁となって、「タイルの街」(INAXライブミュージアム)に里帰りを果たしている。

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安 美賀(設計)
「旧・宇都宮商工会議所」150分の1模型
竣工1928年、模型制作2016年

 その後、何度も明治村へ足を運ぶかたわら、この「柱」が「石の街」の近代建築・土木・産業史に与えた計り知れない影響について、現地・現場・現物に即した調査を重ねていった。中心市街地や近郊の集落における大谷石建造物の残存状況、その素材・工法・意匠の特徴、図面や資料の有無を、実測とヒアリングによって取りまとめた。現役・かつての石切場と工場、採掘・加工の同業組合に何度も足を運び、石屋さんの証言や石工さんの仕事ぶりも記録した。

 また、建築・デザインというものは、単に「色やかたち」の話ではなく、「石」がテーマならば、材料に関する科学的な見識を深める必要があるため、大谷地区では凝灰岩の露頭にハンマーをふるい、同じ地層で結ばれる美術館周辺の川底の岩石を採取している。同様に、産業としての栄枯盛衰を確かめるべく、「石」が運ばれた軌道の廃線跡、現在はJRや私鉄として残る鉄道網を巡り、大谷石を用いた土木構造物、駅舎などにも「柱」がインパクトをもたらしたことに驚かされる。

 フィールドワークの範囲は、やがて県外・遠方にも及び、当初、ライトが使いたかったという幻の石材「菩提石」を求めて、石川県小松市の山中に分け入り、その実物を目の当たりにして、もしこの石が「ライト館」の屋内外に使われたならば、わが街の地域文化は元より、日本の近代建築史は違ったものになったかも知れない、と考えるに至る。そんな「思い出」が地層のように重なり、凝灰岩さながらにゆっくりと固まって、「石の街うつのみや」展の実現となった――1500万年を生きてきた大谷石からすると、まことに短く、ささやかな「思い出」の蓄積である。

会期:2017年1月8日(日)〜3月5日(日) 宇都宮美術館

美連協ニュース134号(2017年5月号)から転載(※役職は掲載時)



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