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リレーエッセイ
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地域の人々に親しまれる美術館に
白石和己 山梨県立美術館長
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電動ベルソー「チンタラ1世号」と深沢幸雄氏

 昨年秋、山梨県立美術館で、深沢幸雄展が開催された。深沢幸雄氏は山梨県出身の銅版画家で、世界的に活躍している。展覧会開催とほぼ同時期に、作者から数百点の自作をはじめ、コレクションなど合計千数百点の寄贈を受けた。深沢版画のほぼ全作品が当館に収蔵されたことになる。彼は1924年の生まれ。若い頃は洋画家を志したが、東京大空襲によって右足を負傷した。当時の混乱した状況のため、十分な手当てもせず軍隊に応召したことによって悪化し、戦後長い闘病生活を余儀なくされた。そのため大きな作品の制作が困難となった。ちょうどそのころ、駒井哲郎らの活躍などを知り、新しい版画運動が盛んになりつつあった時代であり、比較的小さな版画ならばと、創作の場を求めたのだという。表現はもちろん、技術面でもほとんど独学で研究した。独自に開発した電動ベルソー〈チンタラ1世号〉は現在数多くの版画家に利用されているようだ。足のけがというアクシデントが版画家へと導いて、今日の自分があるのだと、笑って話されていた。

 それにしても、山梨県は版画が盛んな土地のように思う。明治末から昭和前期にかけて活躍し、新版画運動を展開した名取春仙、深沢氏の少し先輩には、抽象イメージを木版画で表現し、昨年秋亡くなった萩原英雄氏が活躍したし、また1年ほど前、当館で個展を開催し、現在スペインのバルセロナで活躍している山本正文氏もその一人である。そのほかにも多くの版画家が活躍している。中にはこれらの人の影響を受けている作家も多いと思うが、萩原、深沢、山本各氏の版画を始めたきっかけはまったく異なるし、それぞれが影響されてこの道にはいったのではないということである。

 ところで山梨県立美術館は開館当初からミレーの所蔵で知られている。現在もミレーやバルビゾン派の絵画を主目的として、県外から多くの人々が訪れている。この点では、赴任するまではうらやましく思っていただけだったが、実際にこの美術館で仕事をするようになると、いろいろ問題も感じられるようになってきた。

 ミレーのある美術館としてさらにステップアップするには、特色をどう生かしていけばいいのか。また企画展への、地域の人々の入館者をどう増加させるか等々である。

 今年、当館は開館30年を迎える。この機会にこれまでに全国的に知られてきたミレー、バルビゾン派の絵画を展示している美術館としての特色を、より一層明確に打ち出すべく、ミレー館のような展示室をつくる計画をしているところである。また同時に地域の人々に親しまれる美術館として、どのようなことができるかということも大きな課題である。普及教育活動をさらに進めることはもちろんだが、深沢幸雄展のような、郷土関係の作家の展覧会についても、県立美術館としての当然の役割でもある作家の顕彰ということだけに留まらず、地域の人々とのつながりを、こうしたところから広げられればと思う。

美連協ニュース97号(2008年2月)より転載(※役職は掲載時)



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