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美術館の使命
草薙奈津子 平塚市美術館長
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平塚市美術館のテーマホール

 館長職と言うのは不便なもので、次第次第に美術の専門的なことから、館の管理的な方面へシフトが移っていってしまう。つまりこのエッセイを書くに値する美術的ネタ―地元密着型で、かつ全国区的ネタ―が見当たらないのである。そこで館長として最近思うことを書くことにしよう。

 平塚に来てみたら、とにかく館員も市職員も議員も “市民と密着し、市民のために” という。なるほど公立美術館なのだからもっともである。しかし26万人しかいない市民のみを相手にしていたのでは、とても美術館は成りたたない。市民+市外の人々を対象にしないと、ある程度の入場者数を見込めないのは当然である。

 3年前、私が平塚市美術館に来たときの入場者数は3万人チョッと。建物は、初めていらした方はどなたも驚くほど素晴らしいのに。これでは税金の無駄使いと言われても反論できない。
 それに展覧会も、もひとつぱっとしなかった。市民密着と称して、聞いたこともない近隣作家の展覧会をやっていたのである。全国区的作家は、学芸員自身が自分たちには無理なんではなかろうかと、萎縮してしまうのである。高学歴の学芸員が揃っていてこうなのである。これには本当に驚いた。

 館に来てまずやるべきことは学芸員の意識改革であった。とにかく自分たちが努力すれば出来る、その力があると思わせることであった。でも、年数が若く充実したコレクションのない美術館では、学芸員の目は育たないし、外部との接触も希薄になりがちなことは確かである。それに展覧会が多いのは何といっても東京。その東京に行くのに2千円くらいかかるとなると、安月給の身ではついつい億劫になるかもしれない。したがって出張のときに展覧会も見ざるを得ない。私はそれでいいと思っている。なんといっても見る目のない学芸員など存在価値がないのだから……。

 丸3年平塚で過ごして、美術館がおおいに変わったと自他共に認める。
 一般的人気を考慮し、しかも質の高い展覧会を目指したのである。

 去年開催した主な展覧会は京都国立近代美術館所蔵品展、ブラティスラヴァ世界絵本原画展、それに山本丘人展、内田あぐり展の4展。
 京近美展は99%平塚でリストを作り、大正期のどろどろした作品を中心に、それなりのコンセプトのある展覧会にできたし、絵本原画展は子供たちに喜んでもらえたばかりでなく、比較的若い客層を開拓できたと思う。そして山本丘人展は過去最大の規模内容となり、多くの方に楽しんでいただいた。丘人展と同時開催の内田あぐり展もリアルタイムで現代日本画を紹介でき、うれしく思っている。
 絵本展には皇后陛下もいらしてくださった。平塚市としては初めてのことだったし、美術館としても名誉あることで、 “美術館なんかやめて老人施設にでもしたほうが良い” などという声も聞かれなくなってきた。入場者も今年8万5千人以上に伸びている。

 美術館の改革は一人では出来ない。
 市長はじめ多くの人々の協力を得てこそ可能となるのだが、直接には管理方に優秀な人を送り込んでくれたからである。今までは古株の学芸員に管理方が押さえつけられていた。それでは美術館がうまく動かなくて当然である。館長、管理、学芸が調和良く機能してこそ美術館はうまくいく。

 展覧会が軌道に乗った今、平塚市美術館がこれからすべきことはワークショップのより活性化と思っている。

美連協ニュース94号(2007年5月)から転載(※役職は掲載時)



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