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わが館のコレクション 今と明日
佐々木英也 岩手県立美術館長
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展示室の「長崎26殉教者記念像」(左から)≪聖ヨアキム・サカキバラ≫≪聖フランシスコ・デ・サン・ミゲル≫≪聖フランシスコ・ブランコ≫≪聖フェリッペ・デ・ヘスス≫を鑑賞する来館者

 岩手県立美術館は昨年10月に開館4周年を迎えた。今日までの来館者は合わせて40万人ほど、この数が地方の公立美術館として合格点に達しているか未だしか、なかなか判定の基準が見出せない。

 当館は1階が年に6回ほど行なう、よそから借りた作品展のための企画展示室、そして2階が所蔵品による常設展示室(年に4回展示替え)からなり、上記の来館者数が企画展に負うところ大であることは間違いない。しかし、我々にとって所蔵品による平常陳列が立館の志というか心の支えであることは改めて申すまでもない。

 ところでポイントは所蔵品の内容、その量と質である。私立美術館はともかくとして他の公立美術館を見てまわる際、その地方の出身者に限らず、明治から現代までのさまざまな作家、さらにはモネやピカソ、またロダンに代表される外国の絵画・彫刻をしばしば目にする。

 これらのコレクションは、さまざまないきさつがからんだ結果に相違なく、むろん優れた作品に思いがけないところでお目にかかれるのはまことに楽しく有り難い。

 これに対してわが館の収蔵品は岩手を郷里とする人々の作品からなり、ほかに例えば加守田章二のように関西の出身ながら遠野に窯を構えて製陶したというような、岩手とゆかりの深い作家のものがごく少数加えられている。

 岩手県の教育委員会文化課が郷土作家の作品蒐集に手を染めたのは、美術館を持つより30年前の1970年に、萬鐵五郎の手になるかなりの数の作品をまとめ買いしたことに端を発し、それから10年後に県立博物館が創設されて軌道に乗った。以来、関係者の営々たる努力により、素描その他の資料まで含めれば、蒐集品は今や3千5百余点に達している。そして全体を見渡すとき、文芸や学術の分野に劣らず造形美術においても、わが岩手は卓越した先人に恵まれているの感を深くする。

 細かくは触れないが、絵画は萬鐵五郎に始まって松本竣介から現代の村上善男まで、彫刻は明治の先覚者・長沼守敬から舟越保武を経て子息の桂まで、工芸では南部鉄器以来の伝統を受け継いだ内藤春治や鈴木貫爾の近代性ゆたかなブロンズ作品が中心をなしている。すなわち、郷土出身の人々の作品のみでもって、かなり広大な常設展示場をモタセているわけで、日本広しといえども県立美術館でほかに例があるまい、というのがわれわれの誇りである。開館後も本県ゆかりの作家の作品に蒐集対象をしぼり、他方、舟越保武氏の御遺族から《長崎26殉教者》群像四体その他を寄贈していただいたりして、コレクションはいっそう充実しつつある。

 だが、むろんこれで満足しているわけではない。今後どのように蒐集を進めてゆくべきか、岩手出身者のみにしぼってはコレクションが痩せ細ってしまわないか、だが枠を拡げる場合いかなる方針をとるべきか、学芸員のあいだで常に議論が戦わされている。

 御多分に漏れず県財政の窮迫で購入予算は減少しつつあり、他のいくつかの県立美術館のように打ち切りとなる怖れもなしとしない。さらに、最近アスベスト問題が起こって県財政を脅かすタネがまたひとつ増え、そのトバッチリを受けるのではないか、と悪夢にうなされる夜もある。

美連協ニュース89号(2006年2月)から転載 (※役職は掲載時)



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