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広く論議を興そうではありませんか!
篠 雅廣 高知県立美術館長
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高知県立美術館

 美術館も含めて、各種社会教育機関への「民営化」論議、具体的には「指定管理者制度」の導入が厳しく検討されている昨今、新しい事態を前にして不安もあるでしょうが(私だって同様)、あえて一言。

 私(たち)は最近、美術館破壊論者の一団のようによく揶揄されることがありますが、そんなことはありません。私たちほど、文化の公平な享受を謳う諸法に配慮しつつ、地域社会と美術館のありかたについて真摯な態度でいるひとたちはいない、と思っているぐらいです。

 いたずらに拒否的態度を示すばかりでは前に進みません。この指定管理者制度が生まれてきた歴史的経緯についてよく調べてみてください。どうして、自分たちが論議の俎上に上がってしまったのか。設置主体の政策の失敗かもしれないし、また美術館、すなわち「公」の施設に従事しているひとたちの、成果を地域の人たちへ適切に還元するシステムに問題があったのかもしれません。どちらにせよ、地域の文化政策を自分たちが執行する立場にあることへの自覚が足らなかった、さらには専門家として豊かな翻訳言語を駆使したうえでの設置主体や市民への説明責任が不足していた事情は否めません。問題は顕在化されただけです。論議を性急に収束させてはなりません。

 指定管理者制度を導入することが目的ではなく、あくまで、これからの美術館経営のひとつの手段にすぎないのです。私の場合は昨春、高知県立美術館に赴任して以来、無理やり選び取らされたようなものですが、ものは考えようで、それなりに啓発されたこともたくさんありました。「公」の施設に従事しているひとたちが、さまざまな立場で意見を述べ合い、直営でやれるなら直営でもいいし、現行受託管理組織がふさわしいのであれば、そうすればよいのです。さらに、新しい指定管理者がもとめられる局面もありうることでしょう。いずれにせよ、社会情勢と連動した設置主体からの適切な指導、従事者の自主的な機構改革の努力、市民・利用者や専門家による良識ある外部評価などの諸手続きを踏まえたうえで、この制度のありかたと是非が論議されるべきです。

 歴史的文化的特性や人口の稠密度、さらに交通機関の利便性など美術館の背後にある地域の事情がまったく異なっているのに、日本中で横並びの経営を目指すべきではありません。それぞれの地域の身の丈に合った美術館像が創出されるべきです。しかしながら、公立美術館の主たる財政的基盤は納税によるものですから、これからどのような経営形態が選択されようと、経費の適切な縮減と市民・利用者への一層の奉仕的態度が両立するように努力しなければなりません。

 そう、「公」に従事するものだけが「箱」のなかだけで、地域の文化を支える時代は「終わった」かもしれません。設置主体は往々にして事業の価値判断をすることは苦手ですから、これからは「公」の従事者はもちろん、市民やNPO、企業など、それぞれの地域の文化の特性と展開に関心がある「志」の高い人びとの協同作業によって、絶えず意見が交換され、合意と修正を加えながら文化政策は立案されて、批判的に執行されるべきでしょう。一年ほど前の論議が古びてしまうほど、社会の情勢は劇的に変貌していますが、これまで培ってきた経験を生かせば、地域社会に対して新しい美術館像を提案できる、またとない機会が到来しているのです。

 最後に、この制度について、「文化的蓄積を維持するために美術館の公共性を担保せよ」といった稚拙な論調もありましたが、よく考えてほしいものです。「公共性」とは、手元にある辞書、どれの記載でも同じく、事柄や事業の性質に関わる概念です。たとえ、営利を目的とする企業が「参入」しても、社会教育機関としての美術館の諸業務に携われば必然的に「公共性」を帯びた事業展開をしなければなりません。消費者の要望に応えられないまま不良品を出し続ける企業は倒産するように、元々、営利の追求でさえこの社会においては常に公共的性格を帯びているものです。

 「公」の施設に従事しているものだけが「公共性」を語るのは狭量というものです。公共哲学や公共政策、また文化政策のひとたちのほうが、この問題については、より深い論議をしていますが紙幅も尽きました。勉強してください。

 いずれにせよ、「公立美術館=直営」という美術館をめぐるこれまでの支配的なコードを現場で実践的に読み替える作業が、いまこそもとめられているのです。

美連協ニュース87号(2005年8月)から転載 (※役職は掲載時)



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