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美術館の将来問うコレクションの活用
佐藤友哉 北海道立近代美術館学芸副館長
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 美術館のコレクションが、美術館の活動を成立させているもっとも重要な財産であることは疑いのないところだろう。もちろん日本の美術館の歴史をひもとけば、コレクションなしでスタートした美術館がかつてなかったわけではない。しかし現在、コレクションのない美術館は皆無と言えないまでも、おそらくほとんどの館で何らかのコレクションが形成されているはずだし、少なくとも美連協の加盟館ではコレクションの保有が加盟条件になっているので、その保管と蓄積には相当な配慮がなされてきたはずだ。

 こんな自明ともいえることを述べたのは他でもない。このコレクションの活用こそが昨今の美術館の危機的状況を救うもっとも正統的なアプローチであるだけでなく、ヴァラエティに富んだ企画性のある展示を心がけさえすれば、強く館をアピールしながら地域社会との架け橋となりうるものであり、さらに場合によってはいちばん経費のかからない方法である、と改めて強く思うようになったからである。

 もちろんこうした試みは全国各地でなされるようになっている。館のコレクションを市民に開放し、それによって展覧会を作るといったワークショップは、そのなかでももっとも実験的なものとして注目されるものだと思うが、こうした試みの背景には美術館教育のさまざまな実践が蓄積されてきたことや、鑑賞者の立場に立った展示の在り方の模索、さらにはアート・リテラシーの論議が高まってきたことなどがあげられるだろうか。いずれにせよこうした美術館教育などの成果とコレクションの活用とが一体となってあらたな展示や展覧会の可能性が大きく開かれているといってよいのではないかと思う。

 ところで、毎年どういうわけか、北海道の美術館では一月から三月といういわゆる年度末の時期に、コレクションによる展覧会が氾濫するようになる。北海道においてもっとも過ごしやすい夏場の季節には、なるべくその年度のメインとなる展覧会を充てようとするためにこうした事態が生じているとも言えるのだが、もちろんだからといって冬場のコレクション展の手を抜いているわけでない。とくに近年ではさまざまな試みがなされてきているのだが、このうち今年開催された道立近代美術館の「コレクション・カフェ」は、コレクションのあらたな魅力を引き出した試みとして来館者から大きな反響を得たので、ここで紹介しておきたいと思う。

 「コレクション・カフェ」は、展示室をカフェ空間に見立てて四つのコーナーを設け、ゆったりとくつろげるような展示を工夫したもの。「ポップ・カフェ」「トリック・カフェ」「オーガニック・カフェ」「ヒーリング・カフェ」と銘打ったコーナーには道立近代美術館のコレクションがこれまでとはまったく異なった文脈で展示されたばかりでなく、コーナーに合わせた椅子やテーブルなども置いて雰囲気作りが試みられた。もちろんセルフ・ガイドやさまざまなツールも用意して鑑賞の手だても考慮されたのである。

 常設展を道立近代美術館では「これくしょん・ぎゃらりい」と称しているのだが、今までとはまったく雰囲気の違う「これくしょん・ぎゃらりい」の出現に、正直言ってまったく驚いた。来館者のアンケートには、変化に富んだコレクションがあったことの驚きや、さすがに展示室でコーヒーをサービスするまでには至らなかったものの「極上のコーヒーをありがとう」などというコメントがあり、コレクションの持つ力を改めて知った次第であった。

 もっともこうした企画には学芸員のコレクションや美術館教育についての研究と実践が必要になることは言うまでもないことだ。それに加えて、しなやかな感性もまたきわめて重要なのだということを今回の試みで改めて知らされたのも事実であった。コレクションをめぐって美術館が行えることは、まだたくさんあるのだということだろう。

美連協ニュース86号(2005年5月)から転載 (※役職は掲載時)



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