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“冬から春へ”美術館の正念場
米田耕司 千葉県立美術館長
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関連イベント「いいっぺ銚子!まるごと“体感”」の「まぐろ解体ショー」

 昭和四十九年に開館した千葉県立美術館は、昨年十月開館三十周年を迎えた。私が美術館設置準備の担当として赴任した昭和四十六年頃は、高度経済成長期の最中であった。

 いま、美術館(博物館)は、未曾有の変革期に突入している。美術館冬の時代といわれ、従来の美術館の体制が揺るぎだしている。公立美術館・博物館をはじめ公の施設は「国から地方へ、官から民へ」の行政改革の大号令の下、止めることのできない激流に飲み込まれようとしている。平成十五年三月末、関東地方の歴史と伝統のあった公立博物館(文学系と自然系)がひっそりと閉館した。外部評価委員の評価を受けて、ともにEランクで即刻廃止に追い込まれた。ABCDEの五段階評価のDは「抜本的見直しが必要」、Eは「休止または廃止」ということで、廃止が決まっても、たった一人の市民も反対に来なかったと聞いて、私たちの博物館活動・運動は本当に市民と深く結びついていたのか、と実践者の一人として非常に心配になった。後で分かったことだがその外部評価委員とは公認会計士である。外部評価委員自身は「教育や文化の内容の評価はできません。歳入と歳出のバランスで評価している」という話であった。

 危惧していることがある。博物館の仲間である動物園の学芸員の話である。数年前にある動物園では、動物の食事や糞尿の清掃などの飼育管理業務を指定管理者(株式会社=清掃業者)に委託した。委託後、動物園は見違えるほど美しくなったが、動物の多くが死んでしまった。食事の際の動物の各個体ごとの食欲の有無や糞尿の様子を観察し、健康状態を把握したり、個体識別などの個体数の管理も不十分となり、いつ生まれて、いつ死んだかも不明となり、動物の現在個体数の把握もできなくなった。動物園の生命である動物(博物館資料)が減少して、管理運営費を廉価にして経費節減したことを市民は喜んでいるのだろうか。現在その動物園は、指定管理者から再び、従来の飼育係による管理運営に戻したという。このことを美術館に置き換えれば、館内外の清掃は行き届いたが、美術作品(博物館資料)が、劣化・破損したり紛失したらと考えると、恐ろしい気がする。美術とは、時代精神の造形的表現であり、それは美術作品によって現在と未来の人々に伝えられるべき、生き証人としての存在である、ということの再認識を深めた。

 一方で、時代は美術館などの文化芸術の振興を必要としている。平成十三年十二月に施行の「文化芸術振興基本法」は、美術館・博物館の活動を積極的に推進することを明記した。同じ年の河合隼雄文化庁長官の就任挨拶は「経済と文化は国が栄えるための車の両輪」だというものであった。経済の発展には文化が必要である。文化の方も経済に貢献することで基盤は強化されるという相互関係で、経営の立場からはミュージアムは社会を変革する起爆剤だという意見もある。今や経済と文化は相互に依存し合う時代に入った。

 今回の当館の開館三十周年企画展「─漁民を描く─渡辺學の世界」は、銚子市などの特別協力を得て開催した。もちろん、いい展覧会を開催することが一番のサービスである。その上で作品の背景でもある銚子市の紹介展示や「まぐろの解体ショー」など地域おこしのイベントなどを実践した理由は、美術館には地域を元気にするすごい力があるということを示したかったからである。美術館には、レクリエーション機能がある。市民が美術作品と対話し、インスピレーションと学習と楽しみを体験する、市民の知的レクリエーションの場でもある。市民が文化創造の主体であり、地域が豊かになり市民・県民が元気になればと願っている。美術館が廃止または休止となるなどの非常時に、市民・県民が美術館を本当に守ってくれるような、美術館運営をするために、知恵をしぼりたい。

美連協ニュース85号(2005年2月)から転載 (※役職は掲載時)



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