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美術館から「文化の種」まこう
蓑 豊 大阪市立美術館長・金沢21世紀美術館長
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10月完成を目指して建設が急ピッチで進む金沢21世紀美術館

 今大きく揺れる世界情勢の中で、これからの元気な日本、そして国境にとらわれないですべての国が共存していける国際社会を作り上げていくうえで、芸術・文化の新しい物を創り出す力や人の心に直接訴える力がわれわれの今後の社会的・経済的成長の大きな鍵になると考えています。多くの人が芸術を身近なものとして受け入れ、芸術との接触を通して知識だけでなく何か精神的なものを吸収していければ、それは生活のあらゆる面において、発想の源になったり、動力になったり、支えになったり、意義を与えてくれたりと、生きていくうえでの可能性を大きく広げてくれるのです。その意味でも、芸術は現代における本当の意味での豊かな暮らしへの道しるべなのです。

 これまで芸術の世界と縁がなかったり、関心を持っていなかった人が、突然そのよさに目覚めるということはあまりありません。ここで、美術館という存在が大きな意味を持つのです。西宮市大谷記念美術館長 辻成史氏も言われている通り私も、都市における美術館の役割は芸術を仲立ちとしたコミュニケーションの場であると考えています。多くの人が集まり、芸術を鑑賞し、お互いが語り合い、共感しあう。その中から新たな発想や視点が生み出され、皆さんの日常生活の中に何かが残っていく。そんな場所であると考えています。しかし、従来から日本では美術館は敷居が高いと考えている人が多く、残念ながら国民に開かれた存在ということに力を入れる美術館が増えてきた今でも、気軽に足を運ぶような場所として見られてはいません。その最も大きな原因として、学校が美術館を有効利用した教育をしていないということが挙げられます。外国の美術館に行くと、幼稚園からのグループが先生に連れられ、展示作品の前で座っている光景をよく目にします。展示室で色々な国の作品と出会い、それを通してまだ見たことのない国々の文化、習慣そして美術品の豊かな想像性を学ぶのです。

 先生も「これを見てどう思う?どこがいい?」といった質問を投げかけ、子どもたちに考える力をつけさせます。また、美術館側も子どもたちが楽しみながらさまざまなことを学べるように子どもたちの目の高さにあわせた展示をしたり、こどもたちが興味を持つような作品紹介の仕方などを取り入れて、子どもたちに美術と親しむ機会を多く提供し、「文化の種まき」をしています。それにより、子どもたちは美術館を創造性や崇高性など精神を高めてくれる場として活用しているわけですが、日本では美術館はそのように精神を高める場として活用されていないと考えます。日本の先生は、彼等自身美術や美術館との距離が遠い人が多いので、美術館に来ても「この作品は、何年に誰が作ってこういうところが良いです。」などといった説明の押し付けをしていることが多いように思います。こういう教育では自分で考えることが苦手な人をつくりやすいのです。そして、そのように創造力が欠落した人々は、現実社会で何か障害が生じたときに芸術が与えてくれる想像の世界で休息ができず、またその障害を乗り越える術を考える力が未熟なため、自分の意のままにならないものや人は消してしまおうという考えにとらわれ、最近ニュースでよく報道されるような幼児虐待や、残忍な少年犯罪が簡単に起こってしまうのだと考えます。このような社会を平和に、住みやすくするためには、子どもたちに幼い頃から本当に感動できる美術や文学に触れる機会を増やし、自分で考えたり、創造の世界を楽しむ時間を与えてあげる必要があると思います。今は不況で経済が悪化しているから文化も一緒に衰えるという考えはもう時代遅れです。これからは芸術・文化が経済社会を支え、活気づけていくという発想に切り替え、未来の社会を担う子どもたちに投資しなければならないと思います。

美連協ニュース83号(2004年8月)から転載 (※役職は掲載時)



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