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アイルランドに魅せられて
大河内菊雄 伊丹市立美術館

 現代アイルランドを代表する画家ルイ・ル・ブロツキーの展覧会を、神奈川県立近代美術館と美術館連絡協議会のお世話で伊丹市立美術館で開催することができたのは、一九九一年の二月から三月にかけてだった。その折りには、ルイ・ル・ブロツキーさんも奥さんのアン・マデンさんとご一緒に伊丹にもきてくださって、親しくお話しすることができた。それ以後、ご自身の展覧会や奥さんの個展、お二人での展覧があるたびに、必ずご案内を下さり、こちらは失礼ながら時たまお礼状を出すという関係が続いているのだが、この七月、ダブリンのアイルランド近代美術館に、タペストリーを陳列するというご通知を頂いた。その招待状の図がすばらしかったのと、実は、二〇〇一年の九月に、ロンドンの画廊アグニュースで、その直前に開催されたル・ブロツキーさんのタペストリーをかなりの数見せてもらえて、感激したので、それらの感想を珍しく書いたら、早速にご返事を頂いてしまった。

 それによると、このタペストリーは、ル・ブロツキーさんがユニークなデザイナーであり、献身的な出版人であるリアム・ミラーからアイルランドの代表的な伝説物語「トァン」のイラストレーションを頼まれ、それに基づくものだという。ル・ブロツキーさんはこの神話をトーマス・ キンセラのすばらしい語りで聴かれ、鉄器時代ケルトの生活、思想、暴力的な幻想の再現に深く感動しておられたので、その視覚化の手段には非常に迷ったが、いろいろ試みた末、ほとんど無意識に日本の書の技法を用いることになったといわれる。その言葉にのって、安易に東洋の絵と結びつけたくはないが、その墨の強さ、筆のいきおいは八大山人の鳥の絵に迫るものがあるのではないだろうか。

 ルイ・ル・ブロツキーさんはすでに八十六歳だが、最近は居をダブリンに移されて、元気にこのようなすてきな仕事をされている。実にうれしい。

 ところで、ル・ブロツキーさんの展覧会以来、すっかりアイルランドに魅せられてしまったぼくは、一九九三年、北アイルランドのデーリー市で現代美術を手がけているオッチャイド・ギャラリーにでかけていき、館長のノーリン・オハーさんと意気投合し、日本とアイルランドの若手の現代美術作家の交換展を約束してきた。それは九四年にオッチャイド・ギャラリーで、“Nine Young Artists from Japan”としてみのり、田中朱美、赤崎みま、河邊裕美、浜本隆司、飯田眞人、勝盛哲也、福田新之助、河崎ひろみ、三村逸子が出品し、そのうち八人までが、アイルランドを訪れた。九五年には、伊丹市立美術館で、イエン・ジョイス、アリス・マーハー、ミッキー・ドンリーなど十二人の作家による“北アイルランドの若い画家たち”が開催された。九八年にはやはり、ノーリン・オハーさんの推薦で、リチャード・ゴーマンの個展を三鷹市民ギャラリーと組んで開催した。〇三年の春には、そのゴーマンの近作展が郡山市立美術館で開かれるときいている。よろこばしい。ケルト文化に育まれ、内戦の厳しい現実を体感しているアイルランドの美術は奥深いものがある。

美連協ニュース76号(2002年11月)から転載 (※役職は掲載時)



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