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多元的な学芸員の本質は? 問われる価値判断と決断力
原田平作 愛媛県美術館長
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愛媛県美術館

 京都市美術館に約二十五年、大阪大学に十年、そして今の愛媛県美術館に五年程になる。大阪大学を定年になってからは短大と出版事業にも関係するところとなって、今は『美術フォーラム21』という雑誌も出している。

 このような経歴の中では、美術館とは何なのかと考える機会も多かったが、今またその業務を考えてみると、やはり第一にあげられるのは展示業務ということになる。そしてそれは主として常設展示と企画展示に分けられうるが、その常設は所蔵品保存と購入、続いて企画はその主旨説明と借用力などのことが想起されてくる。

 ということは、前者は美術商や画廊の仕事、後者は研究者や大学人の仕事に通ずるということであろうから、言うなれば学芸員には、商いと研究と、世間では相反しているかのような両面が求められているということになろうか。

 それから次はこれから延長して考えられることとして、運搬作業や展示作業、保存や修復のこと、或いは目録やニュースの作成などのことが浮んでくるが、これらは言うまでもなく美術運送の業務、装潢師・修理師の仕事、出版人・本屋の職業に通ずるものであろう。学芸員たる者一応これらのことも心得ていなければ、職務は全うできないように思われる。

 さてこれだけだろうか。もちろんそうではない。図書の管理もあれば、場合によっては相談員の仕事もあろう。これらはいわゆる図書館司書の道に通ずるものであろうし、相談員の仕事は美術年鑑などの内容を知っている必要があるから、地方の公立では、例えば東京国立文化財研究所が出している『美術年鑑』の、地方版を用意しておく必要にせまられたりする。

 まだある。アトリエがあるような場合には、実技教室やワークショップなどを運営するために、画家や工芸家同様に制作過程に精通しておく必要にせまられたりもしよう。

 更にこれらを遂行するに当っては費用が必要であり、公的機関であれば出納業務に慣れる必要も生じよう。

 ざっと見てもこんな感じだ。こんな中にあって、では美術館人に特別に要求されてくるようなもの、そんなものはあるのかないのかと自問自答したくなってくるが、根本的には価値判断に基づく決断力ではないかと思うのであるが、どうであろうか。

 言い方が抽象的に過ぎようし、美術館は一つの事業所なのであるから、当然ということにもなるかもしれないが、見えざる価値の重みによって格付けされているかに見える美や芸術に直接たずさわる仕事である。いつも対象がどのような価値があり、どのくらいの価値があるのかを気にかけて進まなければ、大袈裟に言えば仕事は進まないということである。例えば目録の厚さ一つを決めるに当っても、決断力が必要だということである。

 見方によっては作品に打ち込めるみずからの情熱と言ってもよいかもしれない。

 このほか美術館には、他では得られない人的交流を深めるチャンスが多いことなども指摘してみたいとは思うが、紙面が尽きてきた。いつかはその具体例の記述をしながら、大学人や美術科教員の仕事との比較もしてみたいと思う。

美連協ニュース73号(2002年2月)から転載 (※役職は掲載時)



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