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現代美術は増殖する
小池一子 十和田市現代美術館長
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十和田市現代美術館 2008年開館

十和田の街に私が初めて入ったのは基地のある三沢の空港からで十年あまり前のことであった。フラットな土地に驚くようなブルバード(大通り)があり、その名は、官庁街通り。道の両側に見事な松並み木が続き、傍に桜が立派な枝を茂らせている。これはさぞや美しい花のトンネルを春には現出させることだろうと想像した。そして実際、2008年の四月には花吹雪の舞う晴天の吉日に十和田市現代美術館が誕生したのである。

 南條史生、建畠晢、北原啓司、私の4人を含む専門委員会が市長の要請で“十和田アートセンター計画”構想を練り、中心となる建築物は指名コンペとなって西沢立衛の案が選ばれ、現代美術の棲む家が登場することになった。西沢建築のこのプロジェクトへの提案は、一つのアートに一つの箱または一人のアーティストに一つの家とも呼べる考えに立ち、コレクション展示にふさわしい空間演出を見せることとなった。

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ロン・ミュエク《スタンディング・ウーマン》2008年

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草間彌生 《愛はとこしえ十和田でうたう》2010年

 ロン・ミュエクのハイパーリアルな人物像はここでは肝っ玉おっかあ然とした巨大なおばさんで6メーターほどの天井高のある部屋に大きな目をむいて立つ。《スタンディング・ウーマン》というその作品名を、タクシーの運転手さんが自然に口に出して観光客に話しかけもする。
この春、私は久しぶりにこの街の美術館に戻り館長として働くことになったのだが、何より嬉しいのは市民が現代美術の館の存在を最近、より一層身近に感じてくれていることだ。

 それには2010年に大通りを挿ん で生まれたアート広場が、ゆるやかな屋外展示の作品展開を現出したことが関わっている。 十和田では、美術館のキューブと呼ばれる箱の中の作品たちと空の下に広がる作品たちが一体となって“Arts Towada”を形成し、アートの風景を提供しているのだ。

 広場の人気者は草間彌生の《愛はとこしえ 十和田でうたう》作品で大小の水玉をまとった少女、きのこ、かぼちゃ、犬たちの彫刻8点からなっている。保育園のこども達がやってきて、大きな水玉かぼちゃの中に入ったり出たりしているのを見ていると時間の経つのも忘れてしまう。なんという情操教育の現場、心のやすらぎを、アートは用意することができるのだろう。これはインバウンドと総称される海外客にも大いに楽しまれている。

 アーツ十和田。この構想は官庁街通りに留まらず広く街の中へ、アートが飛び火していくことを前提としている。西沢立衛の言葉で私が好もしく思うのはこの美術館は「ばらばらのひとかたまり」。一アート作品を収めたキューブが散在し、それをつなげる通路の構成する美術館がかたまりで、そのまわりから、キューブは街中に飛び出していくことが初めから関係者の間で希求されてきたのだ。

 どこにどんなキューブを増殖させよう。生まれたての作品展示空間、つくる若ものたちのレジデンシーともなるキューブ、デザインやプロダクトに特化する大キューブ。キューブの増殖を続けていくこと。

 もともと国の出向機関の統廃合のあおりを受けて寂れていく官庁街通りの景観を守り、市街地の活性化を願ってのアートの起用である。さまざまな角度からの仕込みを楽しんで現代美術だからこそできる増殖をくり返していきたい。

美連協ニュース132号(2016年11月号)より転載(※役職は掲載時)



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