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幸福を実感できる「庭園」に
岡部 友子 東京都庭園美術館 副館長
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アプローチを彩る桜の木

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庭園で開かれたコンサート

 東京都庭園美術館は今年で開館33年を迎えます。私はこの美術館が開館した1983年の採用でしたので、オープンまでの様子を末端で見ることができました。その中で特に記憶に残っているのが、美術館名がオープン直前に変更になったことです。オープン記念グッゲンハイム美術館展のチラシの校正原稿には「東京都白金美術館」と記載されていたのですが、直前に「東京都庭園美術館」と改められました。理由は定かでありませんが、都の施設で特定の地名を名称に入れるのは憚られたのではないかと思います。英文名では、庭園を専門とする美術館と勘違いされないように、庭園をgardenと訳さず、あえてteienとしました。

 開館後は庭園よりもアール・デコ様式の建物(旧朝香宮邸)の評価が高まり、平成5年には本館が都の有形文化財に指定されました。建物のもつ優雅な室内空間を活かし、装飾美術の分野を柱に、絵画、彫刻、工芸などあらゆる分野の展覧会を開催し、多くのお客様をお迎えしてきました。建物に関心が集まる中、名前が「庭園美術館」では、美術館の特色が伝わりにくいと感じたこともままありました。

 それでも、私がこの美術館の展示の中で一番美しいと感じるのは、窓越しに庭園の風景が眺められる展示でした。四季それぞれに表情があり、また朝から夕暮れまで一日の光の表情も違い、この邸宅が庭園の眺めを考慮して設計されているのが良く分かります。また、作品鑑賞を終えて一歩建物の外へ出ると、30メートル近くはあるヒマラヤスギ、レバノンスギ、樹齢90年近い桜など、隣接する国立科学博物館自然教育園の森を背景に、歴史を重ねた樹木に囲まれ、自然の力で癒されます。

 南側には芝庭が広がり、江戸時代からあると伝えられる一本榎をはさんで、安田侃氏の白大理石の大型彫刻《風》と、ザッキンのブロンズ彫刻《住まい》が配置されています。ここでは芝生内に入っていただけるようにしているので、週末には小さなお子さんを安心して遊ばせている家族の姿をよく見かけます。芝生でくつろぐ人々を見ていると、幸福とはこういう時間なのだろうなと思います。そこにはいつも心地よい風が感じられます。

 不寛容社会と呼ばれる今日、美術館は、芸術文化に触れ心を豊かにすることに加えて、自分が幸福であることを実感できる場所であって欲しいと願っています。しかし美術館の対応によっては不満を持って帰られる人もいます。多くの来館者に幸せな気持ちで門を出ていただきたいと、副館長として日々アンケートに目を通しサービスの改善に努めています。

 昨年、旧朝香宮邸は庭園も含めて重要文化財に指定されました。そして、この7月に東京都庭園美術館は新館長 樋田豊次郎氏を迎え、新たなリーダーのもと、歴史的たたずまいに新しい景観が加わった庭園にも、きっと心地よい風が吹くことでしょう。

 そのとき、ようやく「庭園美術館」たる名称の所以が生きてくるのではないのでしょうか。

美連協ニュース131号(2016年8月号)より転載(※役職は掲載時)



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