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展示資料は成長する
竹内 誠 東京都江戸東京博物館長
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上:“あのころ”の東京のくらし 体験コーナー
下:江戸ゾーン 棟割長屋(棒手振(ぼてふり)商人の家の出産の様子)

 楽しく、わかりやすい展示を心掛ける江戸東京博物館には、当時を忠実に再現した実物大模型が多い。

 そのひとつに昭和30年(1955)頃の日本家屋がある。玄関があって、廊下があり、二間続きの畳の部屋、そして一番奥には台所、台所にはタイルの流し場がある。畳の和室には、茶ダンスや旧式の柱時計があり、部屋の片隅には衣桁もある。靴を脱いで座敷に座ると、年配の方は大いにくつろぎ、子供たちはおはじきやお手玉の遊びに興ずる。

 ある時、近所の小学生がこの部屋に頻繁にやって来るようになった。「どうしてここに来るの?」と聞くと、「だって家には畳の部屋がないから」という答えが返ってきた。展示当初は畳は当たり前であったが、今や都市では、博物館に来ないと畳文化が体験できない時代になった。寂しいことではあるが、展示資料としての畳のもつ意義が、大きくなったといえよう。

 江戸ゾーンでは、棟割長屋でのお産の場面が展示されている。当時は座産で、お産婆さん(現在は助産師)が、生まれたばかりの赤子を産湯で洗っており、父親と息子が喜んで見つめている様子を再現している。

 ところが近年、子供たちが「あの人誰?」と母親に聞くと、「さぁ、誰でしょう。赤ちゃんのおばあちゃんかしら?」と答えるのを聞いて、ショックを受けた。そういえば我々世代は、難産を除けば自宅でお産婆さんの手を借りて生まれた。しかし近年では、ほとんどの人が病院で生まれている。村や町に必ずいたお産婆さんは、見かけなくなった。

 そこで、キャプションにしっかりと、出産時におけるお産婆さんの役割を解説する必要が生じた。まさに展示資料は、時代とともに成長するものであると思う。

 東京ゾーンの朝野新聞社の社屋も、実物大の模型である。銀座煉瓦街を代表する建築で、文明開化のシンボルとして展示している。この建物は、のちに服部時計店に買収され、元の2階建ての上に時計塔を載せて、明治28年(1895)に営業を開始した。

 開館20周年を契機とした江戸東京博物館のリニューアルも、歴史の事実の経過と同じように、朝野新聞の旧社屋を再利用して、時計塔を付け、服部時計店へと変身させたらいかがかと思案している。これこそ、江戸東京博物館が誇る、成長した展示資料の最たるものとなるであろう。

美連協ニュース123号(2014年8月号)より転載(※役職は掲載時)



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