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30年が経って
岸野裕人 姫路市立美術館長
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上:美術館前庭から背後に保存修復中の姫路城が望む 2013 年11月
下:ポスター展会場風景
会期:2013年9月13日〜12月23日

 姫路市立美術館は1983年の4月に開館し、昨年の春に30周年を迎えた。さすがに30年も経つと、それなりに美術館の存在が浸透するのだろうか、近ごろは美術館の場所を訊く人も少なくなってきたように思う。ただ、開館当初、地元の人に「元の市役所です」というと誰もがうなずいてくれたが、今では美術館が元は軍隊の倉庫で、戦後は市役所として使われていたことを知る人も減ってきた。問われれば一様に「姫路城の東隣です」と答えることにしている。世界文化遺産で国宝の姫路城を知らない人はほとんどいないからこのひとことで用は足りるが、何となく淋しい気にもなる。

 その姫路城も現在は保存修復中で、天守閣は工事のための囲いに覆われている。歴史的建造物として常に過去の姿を維持する城と、今という時代を映し出す舞台ともいえる美術館の立場は対照的ではあるが、長い時を経てきたこの2つの建物が重なる景色は不思議な調和を見せてくれる。4月には覆面のような被いも取れ、白壁がまばゆい姫路城が数年ぶりに赤レンガの美術館の上に姿を現すことだろう。

 ところで節目の年を迎え、昨年の秋には記念式典や講演会などを開催し、併せて回顧的な催しをいくつか実施した。「ポスターに見る姫路市立美術館のあゆみ」もその一つで、30年間の企画展のポスター160枚余りをエントランスホールから企画展示室へ向う通路の壁一面に張り巡らせた。よく目にする企画でもあり二番煎じだとの不評も覚悟していたが、結果的には好評でありがたかった。ポスターの前に佇む人や、「もう一度見たい」など嬉しいことばを口にされる人もあり、企画展示室への道すがら、わずかな時間ではあるが、ポスターをきっかけに生まれる記憶の連鎖をそれぞれに楽しんでいただけたことは幸いであった。

 開館の年から19年間をこの美術館で過ごし、昨春、11年ぶりに復帰したわたしもポスターの前で佇んだ一人だったが、それぞれの展覧会の担当者や、かつてこの美術館で働いてきた人たちの顔を思い浮かべながら、その数の何と多かったことかと、今更ながら感慨を深くした。

 振り返れば、市民が美術館に寄せる思いと、館の運営に携わってきた時々のリーダーや館員たちの目指したものは果たして通底していたのかどうか。おそらく美術館という施設にわたしたちが不慣れであった時代がそこにあって、30年という月日は未だ近すぎる過去であるのかもしれない。ただ、市民と美術館との交わりは間断なく続いており、美術館とともに生活するわたしたちの風景が広がってきていることは事実だろう。これは30年の間継続してきたことによって生まれた現実であり、一朝一夕にできるものではない。市民と美術館による成果だといえるのではないだろうか。

 小さな催しに見えたポスターの展示は、懐かしさだけではなく多くの示唆をわたしにも与えてくれたようだ。これから先も、過ぎ去った30年をさまざまな視点から見つめてみようと思う。

美連協ニュース121号(2014年2月号)より転載(※役職は掲載時)



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