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駿府に暮らして
歴史好きにはたまらない東海道往還の地
田中豊稲 静岡市美術館長
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《東海道五十三次ひとめ図》2012 年
200 × 320 cm 漆工芸
静岡市美術館蔵

 転勤の多い新聞社の世界に長く身を置いたこともあって、ずいぶん色んな町で暮らして来た。どの土地でも、仕事や日常の交流を通じて、実感するものがある。旅は大好きでそれはまた素敵なのだが、一つの土地で暮らすことは、旅で抱く印象とは違うレベルのものがある。関西生まれ育ちの私が静岡に移り住んで3年余り、この地の温暖さや食べ物の新鮮さ豊富さに改めて感謝している。江戸の初め、大御所となった家康が、駿府に移り住んだ理由に「暖かいこと、便利なこと、米がうまいこと」などを挙げているが、今も変わらないと思う。それに加えて、古くから東海道往還の地であるゆえの奥行きのある歴史があり、史跡や史実ゆかりの地の探訪が大好きな私にはたまらない。

 静岡市美術館は2010年5月に開館した。今年でちょうど3年になる。後発の美術館であり、静岡駅前の複合タワービルの3階にあるということから、諸先輩美術館とは、趣を異にしている。まずスペースにもおのずから制限があるため常設展はなく、企画展のみで運営している。またあえて収集活動は考えず、したがって所蔵品での展覧会はない。企画展用の有料スペース(約1100㎡)以外に比較的広い無料スペース(約800㎡)があり、美術を媒介にしたイベントを多く行っている。

 そんな美術館のエントランスの壁に大きな漆工芸作品(縦2m、横3.2m)がある。いわば唯一の常設展示作品である。縦書きのひらがなを横向きにしているので読みづらいが《東海道五十三次ひとめ図》。開館を記念して静岡市の漆器と蒔絵の両組合が1年半をかけて共同制作した労作である。

 駿府の漆器、蒔絵には明確な歴史がある。徳川家康、秀忠、家光が、駿府浅間神社、久能山東照宮の大造営、修築に全国から職人を呼び集めた。宮大工や左官、飾職や塗師、蒔絵師などといった工芸の職人たち。長い造営作業のあと、職人たちは駿府に住みつき、それが今の木工家具や漆器、蒔絵の伝統産業となった。

 美術館の漆工芸作品には、そんな歴史が凝縮されたように、刀の鞘塗り由来の31種の「変わり塗り」や螺鈿の技法が効果的に使われている。職人技の結晶である作品は、両組合の皆さんが丁寧なアフターケアもしてくれている。

 いい漆工芸は、毎年、磨きをかけることによって、より深い輝きと味わいを出していくそうだ。新生の静岡市美術館も、そうありたいと願っている。

美連協ニュース118号(2013年5月号)より転載(※役職は掲載時)



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