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被災者とどう向きあうか 復興へ何をなすべきか
非日常の中で続く模索
佐々木吉晴 いわき市立美術館長
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ヴェナンツォ・クロチェッティ《サン・ピエトロ大聖堂門扉雛形(最終案)》1958年 いわき市立美術館蔵 ブロンズ 145×72×3.5cm

 去る11月2日、当館でクロチェッティ展の内覧会にあわせて、作品の寄贈式が開催された。寄贈された作品は、彼が10年以上の歳月をかけて完成させたサン・ピエトロ寺院門扉のマケット(高さ145cm/ブロンズ)、寄贈者はローマのクロチェッティ財団である。このセレモニーのためにカルラ・オルトラーニ同財団理事長をはじめとして、副理事長、理事など総勢5名の方々が、イタリアから来館された。

 実は作品寄贈のみならず展覧会そのものも、同財団の特別なご好意(空輸、保険等海外経費をすべてイタリア側が負担)によって実現した。大震災と津波、さらには放射能の被害を受けているフクシマの人々への癒しと励ましになればという、暖かいご好意からである。海外から借用する企画が次々に中止になる中でのことだけに、市民はもとよりわたしたちスタッフにとっても、決して忘れることのできない嬉しい支援だった。

 セレモニー終了後、イタリアからのゲストを近くの割烹にご招待した。魚料理と地酒のおいしい店である。いわきは国内有数の魚介類に恵まれたところ。遠来のお客様へのPRも兼ねたおもてなしのつもりだったが、一つ大事なことを忘れていた。放射能の影響が残っているため、いわきの海ではまだ漁業が再開されていない。従って、その夜提供された魚はすべて、市外からの「輸入物」だったのである。

 24年はもう一つ、印象に残るできごとがあった。夏に開催した北斎展も秋の岩合光昭展も予想を大きく上回る入場者があり、予算上は大幅な黒字で、行政的にいうところの「増額補正」が行われる見込みになったことである。開館28年目にして初めてである。ほぼ毎年赤字で「減額補正」に陥り、次年度予算獲得の交渉に苦労してきたので、増額補正は、館としての目標ではないけれども、いつしか個人的な夢の一つになっていた。それがようやく実現できたわけであるが、今一つ、達成したという喜びが沸いてこない。

 3・11から1年半、かつて静かなたたずまいを見せていたいわきの海浜部には家々の土台のみが残り、雑草が生い茂っている。内陸部の住宅団地には仮設住宅が隙間なく立ち並び、原発警戒区域から避難してきた2万人を受容している。家族も仕事も失った人も少なくない。市民に親しまれてきた中心街の古い建物も倒壊し、街も虫食い状態のままだ。それに加えて放射能への不安。わたしたちは今なお非日常の中を生きている。つまるところ美術館の入館者増は、そうした人々が当たり前に美術鑑賞を楽しんでいた本来の日常を取り戻したいと希求するそのあらわれなのである。

 単純に喜ぶわけにいかないのは当然であろう。美術館は彼らとどう向き合うべきか。復興の長い道のりの中で何をすべきなのか―突きつけられた課題はあまりに重いが、ともかくも今は、できることから一歩ずつ、前を向いて活動していこうと思っている。

美連協ニュース117号(2013年2月号)より転載(※役職は掲載時)



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