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「アート眼」の普及
吉田俊英 豊田市美術館長
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名古屋南久屋交番

美術館の館長という職にありながら何なのだが、美術館にあるものだけがアートではない。むしろ美術館外にこそ、面白いアートが山ほど存在している。前提として、「発見し楽しむ眼(これを勝手に「アート眼」と名付ける)」を養うことが肝要なのだが。

 地元紙がインターネットによる情報発信をやることになって、そこにエッセー欄を持つことになった。テーマは「世間は楽しいアートに満ちている」。街中にありながら、普段何気なく見過ごしている様々なものを、アートとしての観点から見ることによって、日常生活に楽しさや潤いをもたらすことをめざした。これが結構楽しい。見つけ出し、お勧めしている私自身がはまってしまった。

 例えば「デザイン交番」。1994年の警察法の改正により、ある程度自由に作れるようになった交番や駐在所の姿。地元特産の蛸型や見張番のフクロウ型、ロボット型、敬礼した警官型など多彩なものが全国にはある。また、すでに熱心なファン層が居て、学会や同好会まで組織されている「マンホールの蓋」。これは各地方自治体によって工夫が凝らされ、地元の名所、名産、シンボル、など、とにかく種類が多く、しかも色彩豊かなものもあって見逃せない。これを知って以来、旅先で他都市のマンホールが気になって仕方がない。

 また「デザイン・バーコード」。60年ちょっと前アメリカで開発されて、日本でもほとんどの商品に管理のために付いているシマシマ線の、それ自体は無味乾燥なもの。「じゃがりこ」というお菓子は味ごとに違うデザインになっている他、バーコードの波上をサーフィンしている豆腐など、探してみると楽しいことこの上ない。屋根の上の「鬼瓦」だって鬼ばかりではない。七福神や宝物や兎、鯉、鍾馗など吉祥もののオンパレードだ。

 美術館活動は、美術館に来た人だけを対象にすべきではない。近頃人気のミュージアムショップに、館独自の商品や美術的に優れたデザインや機能のものを置いているのは、格好良く言えば「デザイン・マインドの普及」という、一般の人々にも日常からアートに親しんで欲しいという活動に他ならない。個々の美術館が、自分のところの特性をアピールし、少しでも多くの人々を獲得したいというのは当然であるが、それと同じくらいに多くの美術館が共同して、時には美術館を離れてでも、アートそのものの楽しさ、面白さ、身近な親しみ方を普及すべきである。そうしないと全体としての美術ファン層は拡大せず、小さな中での奪い合いという、不毛な、まさに非文化的なことになってしまうのではないだろうか。

美連協ニュース115号(2012年8月号)より転載(※役職は掲載時)



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