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大震災影響下の1年
長谷川三郎 島根県立美術館長
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愛知県美術館コレクションによる「ふらんす物語」展

 広い空と湖水が残照に映え、湖を渡る湿った風が山野の匂いを運んでくる。微かに混じる磯の香が汽水湖であることを思い出させる。美術館から一歩湖岸に出てこの明媚な風光に身を委ねていると、あの戦懐すべき自然の脅威とそれが齎した惨禍をふと忘れそうになる。……3・11から間もない昨年の3月末、翌日からの仕事に備えて松江を訪れ、宍道湖の落日をはじめて体験した時のことである。

 三陸の海岸は、山陰地方からは遠く隔たっている。けれども、島根県立美術館のこの1年間も、やはりさまざまな意味で東日本大震災の影響下にあったこともたしかである。4月も末近くなった頃、秋の特別展として準備して来た「マルセイユ美術館展」について、日本への貸出を中止することがフランス側から伝えられた。連休前に予定していた同展の巡回展参加美術館による全体会議は中止する暇もなかった。各地からの出席者には申し訳ないことながら、議題に入るまでもなく展覧会の中止を伝えざるを得なかった。代替の企画などは各美術館で解決することにしたのだが、立ち上がりの当館は開会予定日が既に4か月余り後に迫っていた。正味3か月ほどで当年度のメインイベントであった「マルセイユ美術館展」に代わる展覧会を作り上げなければならなかった。

 これは愛知県美術館の全面的な協力を得て、同館コレクションによる「ふらんす物語」展(9月17日〜11月7日)として実現した。内容はサブタイトル「ピカソ、マティス、ロダン……そしてフランスを愛した日本人たち」に要約されているが、決定的なことは、当館の協力依頼に対して愛知県美術館がフランス美術をすべて出品するという明断を下されたことであった。

 この展覧会は愛知県美術館との協議によって震災復興支援特別企画と位置づけられ、会期中にはいくつかの東北関連イベントを行なった。被災地から県下への避難者には招待券を配布したが、因みに開会式当時、松江市内だけでおよそ80人の在住が把握されていた。イベントとしては、仙台で活躍する二人のアーティストを招いてワークショップを開いたことが美術館にとって新たな収穫であった。アーティストは漂流物(欠片)を採集して「なおす」作業を続けている青野文昭と、大震災以後「タノンティア」なる被災地のボランティア活動を行なっている多才なタノタイガである。東北のアーティストとの今後一層の交流が期待される。

美連協ニュース114号(2012年5月号)より転載(※役職は掲載時)



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