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身近な美術館でありたい
濱本聰 下関市立美術館館長
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「長谷川潾二郎展」会場風景

 下関市立美術館は今年開館27年になる。私は開館直前からそこに学芸員として勤務してきたが、今春館長職を命じられ、慣れない管理者職務と学芸員としての仕事の間で右往左往の毎日である。責仕者になったからといってすぐに学芸員であることをやめるつもりはないので、右往左往が当分続くことを覚悟している。

 ところで昨今、どこも似たような状況だろうが、当館も入館者数が何年も前からジリ貧状態である。言うまでもなく特別展の規模が大きく影響している。しかし大量動員できる展覧会を頻繁に行うのは予算的にもなかなか困難だから、何か恒常的に多くの人が足を運ぶシステムでもないかぎり、ジリ貧は避けられない。小粒でもピリッとユニークな味のある展覧会と、日常的に市民が気軽に訪れる親近感のある美術館であることが、当館規模の美術館のひとつのあり方だろうと思っている。

 とはいえ、もちろん「そこそこ」に甘んじていればいいというつもりはない。そもそも数の問題でもない。たいせつなのは質や役割、存在感である。適切な喩えではないが、町に総合病院や小さな医院があって、それぞれの役割を担っているように、美術館にもそれぞれの施設や都市の規模に応じた役割があるはずである。あるときは設備と人員の整った大病院の紹介窓口にもなるだろう。しかしまた、小さくともそれぞれ他所にはない専門性も備えているだろう。けっして大きな施設のミニチュア版であるわけではない。

 ところでユニークな展覧会といえば、先頃、美連協の共同企画「長谷川潾二郎展」を開催し、たいへん好評であった。春に平塚市美術館に始まり、当館の後、北海道立函館美術館、宮城県美術館とまだ続く。

 企画発案者の平塚市美、画家出身地の函館美、代表作「猫」などを所蔵する宮城県美という顔ぶれの中で、下関市美は特にゆかりでもなんでもないのだが、会期の空きもあり、ちょうど一年前頃に開催を誘われた。ゆかりも知名度もない画家の展覧会にいささかのためらいもあったが、もともと自分も好きな画家であるということだけをたよりに開催を引き受けた。

 開催中も終わってからも、「いい展覧会をしましたね」とか「何度も足を運びましたよ」という声を聞いた。担当者としてうれしいかぎりである。途中からの参加であったために特別何をしたわけでもないが、学芸員どうしのつながりで声を掛けてもらったことを感謝している。

 これはたまたま企画に相乗りした事例だが、もちろん独自の企画も地道に行なっている。狩野芳崖、香月泰男などは当館の重要画家として、一度ならず企画展を開催した。異色の日本画家、高島北海もまたそのひとりで、来年2月に2度目の企画展を開催すべく目下担当者が奔走中である。

 伝えたい、受けとめたいという、学芸員の眼と感性をなによりもたいせつにしたいと思う。間口は広く構えながら、身近なところで細やかに動く美術館でありたい。

美連協ニュース108号(2010年11月号)より転載(※役職は掲載時)



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