読売新聞へようこそ■イベント
美術館連絡協議会 美連協について English 美術館連絡協議会
-
リレーエッセイ
バックナンバー
楽しくてためになる美術館
安村敏信 板橋区立美術館長
picture
お座敷コーナーでの鑑賞教室

だれでもちょっと のぞいてみたくなる
だれでもちょっと つくってみたくなる
そんな楽しい 板橋区立美術館
これが当館の使命(ミッション)である。

 読んですぐわかるように、当館は、まず好奇心を刺激し、絵を見、何かを作りたくなった人には手法を提供し、美術は楽しいものだという感覚をもってお帰りいただく。

 現代の社会では江戸時代以前の美術、いわゆる古美術と呼ばれている分野は、日常生活からかけ離れ、全く見たこともないものになってしまった。そこで、当館では、古美術をわかりやすく紹介するにはどうしたらよいのかを考えた。まずキャプションである。

 《群鹿群鶴図屏風》狩野晴川院養信筆 絹本着色 六曲一双 この題名からしていかめしい。「ぐんかぐんかくず」。漢字の意味を考えれば鹿や鶴が群れなしている図とわかる。絵師の名前が長い。次の絹本着色って何だ。六曲一双とは何だ。ということで怒りが極まる。そこで当館では、 鹿や鶴がいっぱい 狩野養信(かのうおさのぶ)が描く 絹に色づけ 六つに折れるペアの屏風 というふうな表現にしている。また、古美術品の著作権は切れているので館蔵品に限っては、どんどん会場で撮影してもらおう、ということで、毎年春の館蔵品による展覧会は、写真撮影OKの表示を出している。さらにこの館蔵品展では本物の屏風を露出展示している。そのために三十六畳敷の座敷を作り、そこに靴をぬいで座って鑑賞してもらうのだ。間近に見ると、絵師の筆使いや絵具の重ね具合がよくわかる。

 小学生向きの鑑賞教室で、このお座敷へ連れてくると、子供たちの興味が一段と惹き込まれる。むずかしい説明をしなくても、本物に直に触れることを体で感じてくれるようだ。

 古美術はどうしても同時代感がないため、とりつきにくいと思われがちだ。そこで昨年秋の特別展「英一蝶」では、あるイベントを思いついた。英一蝶とは、元禄期に江戸で活躍した絵師だが、狩野派に学びながらも、浮世絵を越えた新しい風俗画を開拓した絵師である。絵師であると同時に吉原遊郭の幇間(ほうかん)としても活躍した。しかし、幇間(太鼓持ち)という芸が現代の我々にはわからない。とすれば、その芸を紹介することも一蝶理解に欠かせないことだろう。そこで、悠玄亭玉八師匠におねがいして、会期中に当館ロビーに舞台をつくり、芸を披露していただくことにした。本来はお座敷芸なのに、広い舞台で行うことは、大変つらいお仕事であったようだが、浅草芸者のおねえさん二人の競演もあって、楽しいひとときとなった。幇間芸は、私自身も初めて見るもので、こわいろ、漫談、三味線他、様々な芸ができなくては務まらない難しい芸であることがよくわかった。

 このイベントを通して、一蝶という絵師の生きざまの一部を体験することができた。このような展覧会と密接な関係をもつイベントを展覧会ごとに開催し、楽しくてためになる体験を積み上げていってもらいたいと思っている。今後も、当館へ来れば、必ず楽しいと思っていただけるよう、努力を続けたい。

美連協ニュース106号(2010年5月号)より転載(※役職は掲載時)



-
美術館連絡協議会 〒100-8055 東京都千代田区大手町1-7-1 読売新聞東京本社事業局 TEL.03-3216-8664 FAX.03-3216-8978