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参加文化の伝統復活を
河野元昭 秋田県立近代美術館長
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重要文化財《不忍池図》 小田野直武
江戸時代(1770年代)絹本着色
98.5×132.5cm 秋田県立近代美術館蔵

 「河野館長、活性化をお願いしますよ」

 寺田知事からこう言われた。3年前、秋田県立近代美術館の館長をお引き受けし、はじめて挨拶にうかがった時のことである。もちろん引き受けた以上、その覚悟はできている。「微力ですが、できるだけ頑張って、活性化に努めたいと思います」と答えた。しかしそのあとで会ったヴィップからは、「コスト意識をもってやっていただきたい」という要請も出た。活性化とコスト意識――両立は生易しいことではない。ショージ君なら、きっと「自家撞着(どうちゃく)、二律背反、齟齬(そご)矛盾」と難しい漢語を並べるところであろう。それは難しい命題であることの視覚的メタファーともなる。

 私のみるところ、美術館の館長は三つのタイプに分類される。黙って俺について来いとばかりに、館員をぐいぐいと引っ張っていく大将型、自分の考えと館員の意見の一致点を見つけながらことを運んでいく協調型、そしてただ館長室にいるだけという居室型である。はじめに私はどの型を望むか、何人かに聞いてみた。当然のことながら、答えはすべて協調型であった。当面は協調型でやってみることにしたが、そもそもこんなことを館員に聞くこと自体、協調型以外のなにものでもないだろう。少なくとも大将型なら、聞くはずがない。

 何人かの先輩館長にもご意見をうかがってみた。「俺が教えてやるから、そのとおりやってみろ」から「館長元気で留守がよい」まで、十人十色であった。「館長が入館者数のことをあまり言うとオーラが失われるよ」というアドバイスはぼんやりと聞いていたが、今だったらひどく耳が痛いだろう。

 私は自分のカラーでやるしかないと腹をくくった。そしてこうやってみたいなぁという気持を、館のニュース・レターである「アーク」に書いた。わが国では古くから純粋美術と応用美術が渾然一体となっており、美術は参加文化という性格を併せもつことになった。この素晴らしい伝統を少し復活させれば、自ずと活性化につながるというのが主旨であった。いま読み返してみると、現実はそれほど甘くないことを思い知らされる。いや、私の力不足ゆえ、知事との約束が反故になってしまっていることに忸怩(じくじ)たる思いである。

 秋田の近代美術は秋田蘭画に始まるといっても過言ではないだろう。江戸時代中期、東北の秋田で、江戸や京都に先駆けてみごとな洋風画が誕生した。大きな驚きであり、不思議である。代表作、小田野直武筆《不忍池図》は、わが館が誇る傑作の一つだ。最近、学習院女子大学教授の今橋理子氏が、この作品をライトモチーフに刺激的な一書を上梓した。彼女のように秋田蘭画を読み解き、展覧会を企画すれば、もっと多くの県民に楽しんでもらえるのではないかと思いつつ、一気に読んだ。

 秋田蘭画の発見者こそ平福百穂である。日本美術院や文展に発表した清新なる山水画で記憶される寺崎広業と、秋田の思い出からモダンな装飾様式へと転進して大きな影響力を発揮した福田豊四郎を百穂に加えて、秋田の三大近代画家と呼んでよいだろう。自刻自摺の純朴なるフォルムと色感をもって、今は失われてしまった秋田の風俗を懐かしく思い出させてくれる版画家勝平得之も忘れるわけにはいかなり。スケッチを含めて、彼らの作品の収蔵に努めていることは、言うまでもない。

 これらから受ける感動をカタログやキャプションで説き、展示で視覚的理解へと高めることが私たちの責務。ここに参加文化的要素を加味すれば、より多くの人々に美術の醍醐味を味わってもらえるだろう。しかし、言うに易く行なうに難しとはこのことである。日々努力は重ねているのだが……。

美連協ニュース103号(2009年8月号)より転載(※役職は掲載時)



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