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サイトスペシフィックワークの魅力
藤田直義 高知県立美術館長
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コンフェティ劇団「秘密のショートケーキ」

 今年は当美術館の開館15周年に当たる。私は開館翌年の1994年4月に併設の美術館ホールの企画担当として、当時勤務していた地方銀行から出向という形で赴任した(その後退職)。仕事の合い間に続けてきた実験映画やドキュメンタリー映画の上映活動が、映画上映を含むホール事業に適しているという理由だったらしい。ホールの客席数は399席で、客席数の割には舞台上が広く、映画上映だけでなく、コンサート、ダンス、演劇まで可能な本格的な機能を有していた。赴任後、現在までに200以上の企画を実施することになる。

 初代館長の鍵岡正謹氏(現岡山県立美術館長)は、劇場勤務経験やスタジオ200を併設していたセゾン美術館に勤務していたこともあって、美術だけでなく、パフォーミングアーツにも通じており人脈も多かった。初めてのパフォーミングアーツの企画案を鍵岡さんに相談した時のやりとりは今でも忘れられない。「秋に大阪の劇団、維新派の公演をしたいのですが…」と言った瞬間、「だめだ。維新派を上演するくらいならダムタイプに頼む」とおっしゃって、目の前で電話をされはじめた。海外ツアー中だったらしく電話がつながらなかったので、「仕方がない、やってみろ」と実施に漕ぎ着けた。維新派は以前相当無茶なことをしていたらしいが、この頃はすっかり洗練されており、公演を見た鍵岡さんから「良かったじゃないか」と言われ、その後は一度たりとも提案を反対されることはなかった。このやりとりのおかげでパフォーマンスグループ、ダムタイプを知ることになり、その後共同製作を含め3度も付き合うことになる。とりわけ当館での上演はかなわなかったが、「S/N」は衝撃だった。「S/N」を超える作品にはその後も出会えないでいる。

 ダムタイプの次に上演を夢見たのがピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団である。同舞踊団の公演は巨大な舞台美術が特長で、とても当ホールで行える規模の公演ではなかった。しかし、関係者のご尽力もあり、舞台美術は無い状態で日本未上演も含む9作品からなる名場面集を実現することができたのである。

 ここ数年、演劇・ダンスの公演をホールではなく展示室で行いたいという希望が増えてきた。昨年はチェルフィッチュ、ポかリン記憶舎、来年はCYAN(金森穣&井関佐和子)が展示室で公演を行う予定である。個人的にも、ホールを使わないサイトスペシフィックワークに魅力を感じており、本年7月には乗用車で移動しながら街並みや風景を生かして行うイギリスの演劇「ピノキオ」のアジアで初めての上演を行った。俳優は運転席と助手席の2人、観客は後部座席の3人で、映画の中に飛び込んだような体験型公演となった。体験型と言えば、11月には巨大なケーキの中に観客が入って行く「秘密のショートケーキ」というカナダの作品を、金沢21世紀美術館などと共同で実施する予定にしている。

 近年の財政状況では、ダムタイプやピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団のような大きな公演はとても考えられない。これからは、小粒でもおいしい作品を世界各地から取り寄せることができるようになればうれしい。

美連協ニュース100号(2008年11月)より転載(※役職は掲載時)



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