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第33回 「心に残る医療」体験記コンクール 〜あなたの医療体験・介護体験を募集します〜

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第33回入賞作品

<中高生の部> 優秀賞

一日を大切に

阿部耀日(あべ てるひ)(13)東京都

今年の6月30日、私の大好きだった母方の祖父がなくなりました。

それは突然のことでした。部活中に母から学校に連絡があり、受話器をとると急いで帰ってきて、とだけ言われ、訳もわからないまま帰宅すると、祖父が沖縄旅行中に事故にあい、そのまま意識不明で病院にいて息をひきとるのも時間の問題だ、と母が涙ながらに私に説明してくれました。とりあえず1人で家に居る祖母が心配なので、母と姉と私の3人で母の実家のある草加に向かいました。祖母は落ち着いてるように見えましたが、突然のことにどうしていいかわからない、といった様子でした。

翌日、とり急ぎ祖母と母が、祖父のいる沖縄の病院にむかいました。私も行きたかったけれど、遠く離れた地で準備もない状況だったので東京で待っているように言われました。

沖縄についた母から、その夜連絡があり、祖父は息はしているけど、もう助からない、祖父がまだ頑張っているうちに沖縄にくる? と聞かれ、私は迷わず「行く」と答えました。

翌日、父に空港まで送ってもらい、私は1人で沖縄にいきました。1人で飛行機に乗るのは初めてだったし、それよりも祖父のことを想像すると、すごく怖くなるし不安だらけでした。

沖縄につき、母と病院に行きました。広い病院のエレベーターに乗って、祖父のいる階で降り、ドキドキしながら病室に入りました。つい3か月前に会った時には、とても元気だった祖父の印象とはほど遠い光景に、私は涙しか出てきませんでした。ベッドに寝ている祖父は人工呼吸器をつけられ、いろいろな管を体中にたくさん付けられていました。人工呼吸器がないともうすぐにでも死んでしまう、そんな状態でした。私と祖父は仲が良く、2人でいつもふざけ合っていたのに、今はもう話すことも笑うこともできない。必死に「じいじ」とさけんで呼んでも、反応は全くありません。こんなに温かいのに、とまた涙がでました。

祖父はゴルフのプレー中にカートから放り出された形で頭を強く打ち、脳内の損傷がひどくたとえ手術したとしても植物状態になってしまう、とお医者さんに言われたそうです。祖父母は「自分たちに何かあった時、絶対に延命治療はしないでほしい」といっていたので、家族の判断で手術はせず自然にまかせて最低限の治療だけで見守ることにしたそうです。担当のお医者さんからは、延命治療がいいか悪いかは家族の判断で、医師の立場からは何も言えない、祖父の状態からすれば私たち家族の判断は正しかった、手術をしても助かる見込みはなかった、とはじめて聞かされた時、私たちはとても救われた気持ちになりました。治る見込みがあれば、どんなことをしてでも治してあげたい、そう思いましたが、機械や管につながれて何の意志も表示もできない祖父の姿は、本当に見ていてつらいものでしたから。私が来るまで待っていてくれた。祖父の手をにぎり、今までの感謝を伝えていると病室にいた看護師さんはそっと出て行き、本当は開けておかなければいけないドアもしめてくれました。「何かあったら呼んで下さいね」と告げて。そういった心遣いのおかげで私は祖父が、もういつ亡くなっても悔いの残らないくらい話ができました。

1日目の夜母の弟が祖父に付きそい、2日目の夜、母が付きそい、3日目の夜、祖母が付きそい、4日目、10時53分祖父が息を引きとりました。私と母が東京に帰るため病院を出て1時間後のことでした。祖父の最期には立ち会えなかったけど、母に「私と耀が帰っちゃったから『もう頑張んなくていいや』ってじいじ思ったのかもね」と言われ、悲しかったけど前向きに、これからは祖父の分までいろいろなことを頑張ろう、と思いました。

祖父は、71年の生がいでしたが、病気ではなく事故という突然の出来事で命をなくしました。永遠の命なんてない、いつ何が起こるか分からない、そういう教訓を心に刻む経験でした。そして、病気やケガで入院した時に、お医者さんや看護師さんの存在は大きくその言葉や行動に家族はとても励まされたことを忘れません。祖父が亡くなってから、私たち家族の合言葉になりました。今日一日を大切に。生きている人たちが幸せであることが祖父の供養なんだと思います。じいじ、見ていてね。


(敬称略・学年などは2015年3月7日時点)

  • (注)入賞作品を無断で使用したり、転用したり、個人、家庭での読書以外の目的で複写することは法律で禁じられています。


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  • 主催
  • 日本医師会
  • 読売新聞社
  • 後援
  •  厚生労働省
  • 協賛
  • 東京海上日動 東京海上日動あんしん生命

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