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第33回 「心に残る医療」体験記コンクール 〜あなたの医療体験・介護体験を募集します〜

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第33回入賞作品

<中高生の部> 最優秀賞

オジイチャンと居る我が家

下田愛子(しもだ あいこ)(14)東京都

「あなたに手がかからなくなったらオジイチャンが赤ちゃんになっちゃったね」と母が24時間営業の自宅介護という先の見えないオジイチャン介護職に就いてしまった。86歳のオジイチャンと6人家族が暮らす楽しく素敵な我が家の話です。

母方のオジイチャンは、家族や他人も怒鳴ったり揉めたりなどしたことのない温厚な父親だったそうです。そんなオジイチャンが2年前くらいからお婆ちゃんに拳を振り上げたり唾をかけたり、トイレで履くオムツから落ちた大便を踏んだり、気が狂ったように叫んだり、ハトを呼びたくなるくらいに床にご飯をこぼしたり、皮やアカがポロポロしても、風呂場で洗ってあげる母を殴り、汚れたオムツを野球の始球式の芸能人のように投げたり、と私が家に居ると次から次へとオジイチャンに起こる不思議なことを見ることになったのです。

大学生の兄は、オジイチャンを「ユウチャン」と呼びます。子供の頃に「ユウチャン」と呼ばれていた、その掛け声はオジイチャンをニコニコにします。兄は、オジイチャンに近寄り「元気?」とか「何食べてるの、美味しい?」と話しかけています。孫のお兄ちゃんがオジイチャンのお父さんに見えます。オジイチャンが転んで殺虫剤をかけられた虫みたいに這いつくばってしまった時も「ユウチャン転んじゃったの〜?」とお姫様ダッコをして助けてくれます。そんな時に「ふぁー助かったよー」と嬉しそうに目を細めているオジイチャンを見ると「ああ、優しいお兄ちゃんが居てくれて良かった」とホッとした気持ちになります。

オジイチャンは、兵隊として戦争には行っていないのに夕食が終わり部屋に戻る時に背スジを伸ばして右手をおでこにピッとあて敬礼をします。いつもは滑舌が悪くゴニョゴニョ何を言っているのかわからないのに「ハイッ御馳走様でした」と、その時は男らしく元気な声で言えます。ご飯が自分で食べられ、挨拶ができ、今日も一日メデタシメデタシと感じて皆に笑顔がわきます。

大学やアルバイトに忙しくしている姉が歩行器でアリみたいに歩いているオジイチャンの後から「イチニーイチニーオジイチャン頑張れっ」と腰を押しながら廊下を歩いていると「押すなよー」と言いながら笑い出す姿を見ると楽しい気分になります。「渋滞してますよー」と言われても平気でナマケモノみたいに歩く様子は、現代の忙しく時間に追われている私たちに「そんなに急がなくていいんじゃないか!」と言っているみたいです。

オジイチャンは、戦争時代に食べる物も着る物もなく貧しい生活をしていた。その後も昼に仕事をして夜には大学に通い電気や機械の勉強が好きで寝る時間も惜しんで徹夜をしていたそうです。ご飯を食べたことや、今トイレに行ったことも忘れてしまうのに、その話は沢山喋ってくれます。友達と遊んだり、携帯をいじったり、買い物をしたり、私には自由な時間が沢山あります。勉強を後回しにしたくなる気持ちが恥ずかしくなりました。その反面いくらでも勉強ができて興味のあることにチャレンジさせてもらえる環境に感謝したいと思います。

お婆ちゃんは「オマエなんか出て行け」とか「バカヤロー」とオジイチャンに言われています。でも、その後お婆ちゃんが見えないとキョロキョロ探し回っています。どんな気持ちで言っているのか「心の中が見えたら良いのになァ」と思いますが、謎なオジイチャンゴコロです。身の回りのお世話やオジイチャンゴコロに翻弄され仏壇の前で「御先祖様、いつでもオジイサンを迎えに来てもらっていいんですよ」と愚痴をこぼしているお婆ちゃんを見ると、辛い時間が続くと家族でも、そんな気持ちになるのだと思い、「お婆ちゃんったら変なこと言うよね?」とオジイチャンに言うと「アハハハッ」とお婆ちゃんを見てニコニコしているので、「こんな時は、怒らないんだ!」とコケッとなります。

私たちの体調や気持ちが、どんな状態でもオジイチャンの介護はあります。誰にでも頼めるわけでもないし、地域や社会で見守ることができたらいいなと感じます。

先が見えないので、母は大きな大きな、ため息をついている時がありますが、家族で支えていきたいです。赤ちゃんのような、生き字引のような可愛いオジイチャンに色々なことを教えてもらい生きています。これからも、我が家で楽しく7人で過ごしていきたいと思いこの話を終わりにします。


(敬称略・学年などは2015年3月7日時点)

  • (注)入賞作品を無断で使用したり、転用したり、個人、家庭での読書以外の目的で複写することは法律で禁じられています。


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  • 主催
  • 日本医師会
  • 読売新聞社
  • 後援
  •  厚生労働省
  • 協賛
  • 東京海上日動 東京海上日動あんしん生命

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