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第32回 「心に残る医療」体験記コンクール 〜あなたの医療体験・介護体験を募集します〜

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第32回入賞作品

<一般の部> 読売新聞社賞

発達障害と向き合って

竹中晃子(たけなかこうこ)(29)熊本県

私は、広汎性発達障害という目に見えないハンディを抱えている。これまで、あらゆる面でつまずきの多い人生だったが、ある一人の精神科医師との出会いで、自分の生きづらさが軽くなってきた。

一昨年の春。希望を抱いて、鹿児島県の重症児施設に赴任した。新生活に期待と不安を抱きながら、見知らぬ地に足を踏み入れる。

しかし、入職後は苦難の日々だった。新人研修を忘れて帰る、利用者の怪我につながるミスをするなど、失敗の連続。また、同じ失敗を繰り返してしまいがちで、叱られてばかりの毎日。

やがて、うつ状態になり、仕事にやる気が起きなくなった。身体にも不調が現れ、職場に着いた瞬間、めまいがするようになった。

そんな中、私はある日、仕事中に上司から呼び出される。「あなたは、利用者全員に気が配れていないのに加え、利用者の意思がうまく読めていない。言葉で意思表示できない利用者に代わって言いますが、あなたには重症児の人の支援を任せられない!辞めてもらいたい!」クビの宣告だった。わずか1か月半で、退職に追い込まれてしまった。

大学生の頃も、友達ができにくい、実習中心の授業でミスを連発するなどのつまずきが目立っており、「他の人にできることが、なぜ私にはできないのだろう…。」と、悶々としていた。大学の授業で発達障害のことを知り、「自分も当てはまるのではないか…」と薄々感じていたが、当時は病院受診をためらっていた。しかし、もうこれ以上、苦しみたくなかった。「自分の本当のことが知りたいです。白黒つけたいです!」藁にもすがる思いで、大学病院の精神科に足を踏み入れた。

待合室のソファに座っていると、私の前に一人の男性医師が現れた。40歳代前半くらいの白髪交じりで、とても優しそうな眼差しの先生。その先生が担当医・J先生だった。

「竹中さん。」名前を呼ばれ、私は診察室に入っていく。

前職を退職になったばかりで、身も心もズタズタに傷ついていた私は、これまでの自分のつまずきを、涙ながらにJ先生に打ち明けた。J先生は、穏やかな表情で聞いてくださっていた。また、私の仕事上のつまずきを元上司が紙に書いてくださっており、それもJ先生にお見せした。

問診の他に脳のCTや知能検査などを受け、はっきりとした診断が出るまで約1か月かかった。そして、運命の2011年7月6日。

「あなたは、広汎性発達障害・アスペルガー症候群の傾向がありますね。」

J先生からそう告げられる。そして、「今まで、辛かったでしょう…。」と言われ、大粒の涙がこぼれそうになった。

その後、J先生から「残念ながら発達障害は、生まれつきの障害のため、完全に治すことはできません。前職のような変化の大きい仕事は避け、事務など比較的ルーティン化した仕事を選んだ方がいいですね。ただ、普段の生活において、メモを取るなどの工夫をすることによって、つまずきを減らしていくことは可能です。もしよければ、生きづらさを軽減するために、月一回話し合ってみませんか?」と勧められる。私は、今後のことも考え、迷いもなく首を縦に振った。

その日を境に、月一回の先生とのカウンセリングが始まった。毎回、自分のつまずきやパニック等を紙にまとめ、それを基に先生と話し合っている。診断を受けてから間もない頃、「努力不足」などと家族から言われたり、就職先が決まらないことで家族と喧嘩になったりして、精神的に不安定になることが度々あった。今までに、受診日を何度早めていただいたか知れない。そんな時、J先生は「今日みたいにどうしても苦しい時は、いつでも受診していいですよ。」と、優しい言葉をかけてくださった。ただでさえ辛かった私は、J先生のその言葉がすごく支えになり、患者一人一人としっかり向き合ってくださっているJ先生に大変魅力を感じた。

その他、再就職に向けて障害者手帳用の診断書を書いていただいたり、私のハンディについて家族に説明をしてくださったりと、J先生にはたくさんお世話になった。

そして、昨年6月。ある病院に事務職として、障害者枠で採用された。月一回受診のおかげで、仕事やコミュニケーションでのポイントが徐々に見えてきて、前職のような事態を起こすことなく、無事に入職一年を迎えることができた。仕事上、お医者さんの白衣姿を目にすることが多くなったが、その姿から、私たち患者のために、日夜研究や診察に奮闘されているJ先生の姿が思い浮かぶ。

仕事に余裕ができたら、J先生に完全に近づくことは難しいが、私と同じ発達障害で悩んでいる人達の力になりたい。


(敬称略・学年などは2014年3月現在)

  • (注)入賞作品を無断で使用したり、転用したり、個人、家庭での読書以外の目的で複写することは法律で禁じられています。


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  • 主催
  • 日本医師会
  • 読売新聞社
  • 後援
  •  厚生労働省
  • 協賛
  • 東京海上日動 東京海上日動あんしん生命

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